研究課題/領域番号 |
15K05104
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 佳孝 大阪大学, 核物理研究センター, 招へい教授 (60093457)
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研究分担者 |
民井 淳 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (20302804)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 弱い相互作用 / ベータ崩壊 / 強い相互作用 / 荷電交換反応 / ガモフテラー遷移 / 固有崩壊巾 / 荷電スピン選択則 |
研究実績の概要 |
原子核を構成する核子はスピン量子数を持つ。また原子核は2種類の核子、つまり陽子と中性子から構成される。その事を特徴付けるのがアイソスピン量子数である。本研究の対象となるガモフテラー(GT)遷移は、原子核の性質と密接にかかわるこれら2種類の量子数の状態を変化させる働きをし、原子核構造研究の為の基本的な情報を提供する。また宇宙での元素合成、例えば超新星爆発時におけるニュートリノ起源の元素合成に目を向けた時、弱い相互作用によって起こるGT遷移の果たす役割の大きさに目を見張る。しかし弱い相互そのものを使ってのGT遷移の研究は、その相互作用の弱さ故に絶望的である。 しかし一定の条件の下では、強い相互作用で起こる荷電交換反応が逆ベータ崩壊のように振る舞い、しかも高励起状態へのGT遷移の研究が可能であることに目をつけた。そこで、a)世界最高分解能が得られる荷電交換反応による研究 b)アイソスピンに関して対称な不安定核からのベータ崩壊を用いた研究、これら2種類いの研究を融合する事により、GT遷移強度の絶対値を得ると共に、原子核に於けるGT遷移の詳細及び全体像を理解しようとしている。 sd-殻核、26Mg からのGT遷移の研究の為の、高分解能(3He,t)荷電交換反応実験の結果を分析し、1)この反応とアイソスピン対称な不安定核 26SiからのGT遷移強度の絶対値を使い、26Alの励起エネルギー 19 MeV までの、GT遷移強度の詳細を明らかにした。更に 2)過去の同種の実験に比べて5倍程高い分解能測定により励起状態の「固有崩壊巾」を観測した。 励起エネルギーが高くなるにつれて、10 MeV 程度の励起で崩壊巾が最大になり、更に上の13.4 MeV 状態では、崩壊巾が急にほぼゼロになるという興味深い現象を見出した。来れにはアイソスピン量子数の選択則がかかわっている事を突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は、大阪大学核物理研究センターでの高分解能(3He,t)荷電交換反応実験で得られたデータを、ベータ崩壊の結果を参照しつつ解析した。原子核におけるガモフテラー(GT)遷移の全体像を掴むための研究を一歩一歩進めている。 前述の様に、sd-殻核、26Mg からのGT遷移の研究においては、26Alの励起エネルギー 19 MeV までの、GT遷移強度の詳細を明らかにし、かつ「固有崩壊巾」を観測した。励起エネルギーが高くなるにつれて、いったん10 MeV 程度の励起で崩壊巾が最大になり、更に上の13.4 MeV 状態では、崩壊巾が急にほぼゼロになるという興味深い現象をみつけたが、これはアイソスピン量子数の保存則を目に見える形で示した事になる事に気付いた。現在研究の範囲を、26Mg と同様にsd-殻核であり、かつアイソスピン量子数において同様の性質を持つ「隣の原子核」、22Ne、30Siにも広げ、高励起GT状態の崩壊巾研究を続けている。 従来、荷電交換反応によるGT遷移研究において、最もよく知られ、かつ詳しく調べられてきたGT励起は、10MeV 程度以上の高い励起エネルギーに見られるGT共鳴(GTR)状態であった。しかしここ数年のデータ解析の蓄積により、このGTRと同程度の強度を持つ「低励起スーパ GT状態(LeSGT 状態)」の存在を系統的に確立しつつある。(第一報の論文はPhysical Review Letters 誌に掲載された。)既知の42Ca-->42Sc におけるガモフテラー(GT)遷移強度の第一GT状態への集中に加え、18O-->18F、6He-->6Li、10Be-->10B の場合に於いても、同様なGT遷移強度の第一GT状態への集中が観測された。LeSGT 状態の研究に広がりが見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的であるGT遷移の研究を着実に進める。実験手段として両輪を成すのは、1)荷電交換反応と、2)ベータ崩壊による研究である。それぞれの手段による実験、及びデータ解析を順次行う。研究の継続により、以下の問題の解明を目指している。 1)sd-殻核26Mgの解析結果が示したのは、GT状態の「固有崩壊巾」が、アイソスピン量子数の選択則に依存性にして変化するという事である。つまりこれを利用する事により、高励起GT状態の、アイソスピン量子数を同定出来る可能性がある、という事になる。さらに、我々が実現している分解能が、原子核GT状態の固有崩壊巾を調べるのに十分な手段である事も示した。この知見を原子核アイソスピン量子数を研究する為の新たな手段として発展させる様、研究を進める。 2)低励起スーパ GT状態(LeSGT 状態)の研究を更に進める。今までの研究により、原子核の荷電スカラー的、及び荷電ベクトル的残留相互作用の「せめぎ合い」のバランスが、原子核GT遷移の励起エネルギー分布を決める重要なカギである事を示しつつある。さらに系統的研究を進めたい。 3)フランス・GANIL 研究所で、原子核における荷電スピン量子数に基づく対象性がどの程度良く成り立つかを検証するベータ崩壊実験行なった。フランスグループとの共同研究として解析を進めている。 4)一昨年度から、ドイツ・ドレスデン工科大学のグループと、原子核を「検出器」として、太陽ニュートリノを効率よく捕まえる為の研究を始めた。適切な原子核をニュートリノ検出器として使う事により、ニュートリノの中性流、荷電流による原子核との相互作用を分離し、かつ効率良く実験的に観測できる可能性を追及する。いままでの、原子核構造の研究の為のGT遷移研究に加え、大阪での荷電交換反応実験のデータを活かした、新たな研究分野が広がるのではないかと期待している。
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