本研究では偏極陽子標的を用いた不安定核の非束縛核分光法の開発を行っている。本年度は安定核のビームと非偏極標的を用いて、逆運動学陽子共鳴散乱のための測定系の開発と、SiPM(シリコン光電子増倍器)とCsI(Tl)結晶による反跳陽子用シンチレーション検出器の開発を行った。 九州大学タンデム加速器において核子あたり2.33 MeVの炭素12ビームを陽子標的(ポリエチレン)に照射し、逆運動学陽子共鳴散乱により、窒素13の既知の共鳴励起状態を観測し、実験・解析手法の検証をおこなった。共鳴エネルギーの解析結果と既知の値の比較から、今回のような低エネルギー領域ではビーム粒子の標的中のエネルギー損失の評価をSRIMのような計算コードだけにたよる場合、その誤差が系統誤差の主要因になることがわかった。将来の不安定核ビームによる実験の際には、エネルギー損失の実測により計算コードの補正をすることが望ましい。 次に、逆運動学共鳴散乱における反跳陽子の検出において通常用いられるシリコン半導体検出器の代替として、CsI(Tl)結晶にSiPMを取り付けた検出器のプロトタイプを製作し性能評価を行った。CsI(Tl)シンチレーターは比較的安価に製作でき、信号波形分析により検出器単体で粒子識別が可能であるという利点がある。さらに、近年になって利用可能になった SiPM は従来のフォトダイオードに比べ、出力信号が大きく電気的ノイズによる分解能の悪化がほとんど問題にならないという利点がある。今回、タンデム加速器による3~12 MeV の陽子および重陽子の弱いビームを検出器に照射し、性能評価を行った。その結果、本研究が想定する、幅が広い共鳴を観測する実験には、十分なエネルギー分解能と粒子識別能力が得られることが確認できた。
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