研究課題/領域番号 |
15K05107
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
馬場 彩 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (70392082)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超新星残骸 / 宇宙線 / X線 / ガンマ線 |
研究実績の概要 |
我々は超新星残骸での宇宙線加速について系統的・多角的な研究を続けている。 本年度は「ひとみ」衛星の打ち上げに伴い、超新星残骸の超高エネルギー分解能データが初めて得られた。大変残念なことに観測時間は非常に短かったものの、超新星残骸N132Dのプラズマが非等方的に運動していることを発見し、非等方爆発の可能性を示唆した。今後は「ひとみ「代替機」で超新星残骸での宇宙線加速に対して何ができるか、どのような計画で打ち上げに向かうかなどを議論していく。 また、我々は「すざく」衛星の観測データを用い、超新星残骸での宇宙線加速起源を探っている。RCW86という超新星残骸のマッピングデータを使い、熱的X線強度と非熱的X線のべきには反相関があることを示した。前者は星間物質密度に相関し、後者は加速された電子の最高エネルギーに相関することから、密度が薄い場所の衝撃波ほど衝撃波が減速されず、電子の最高エネルギーが高いままであることを初めて示した。このような定量的な加速効率の環境依存測定は世界で初めてである。 年老いた超新星残骸からはシンクロトロンX線は検出されない代わりに、GeV程度のガンマ線がよく検出される。これは分子雲にぶつかった超新星残骸衝撃波から逃げ出す粒子が周辺物質と相互作用することで、パイオン崩壊起源のガンマ線を出すからだと考えられており、どのような環境でこのような逃亡が起こるかを知る絶好の環境である。我々は複数のGeVガンマ線超新星残骸の深い観測を行い、このような超新星残骸で急激な冷却が起きていることを示した。なぜこのような冷却が起こるのか、宇宙線逃亡と関連があるのかを今後調べていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ひとみ」衛星を失ったことは非常に痛手であり、その意味では当初の目的の一部は達成できなくなってしまった。ただ、我々は代替機に向かって動き始めており、「ひとみ」衛星のデータからの知見をそこに活かすことで、代替機ではさらに効率のよい研究を進めたい。また、期せずして「ひとみ」のデータからパルサーをもつ超新星残骸の起源に制限をつける研究ができることが分かってきたことは、想定以上の成果である。 一方、年老いた超新星残骸での宇宙線逃亡の研究については、想定していたよりも効率よく研究が進められており、総合するとおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「ひとみ」衛星を用いたさらなる研究はできなくなったが、「ひとみ」衛星が遺したデータは、想定していなかった超新星残骸の研究分野を切り開きつつある。これらを代替機に向けて温めつつ、現存の衛星を用いた研究はこのまま順調に進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度中に支払予定であった論文投稿料が、論文の受理が遅れたためまだ未払になっているため、次年度に繰り越して支払うことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の計画は予定通り進め、研究の完成を目指す。先ほど言及した論文が受理され次第投稿料を支払うと、それ以外はおおむね元の計画通りに進められる予定である。
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