研究課題
雷や雷雲がもつ強い電場により、電子が相対論的エネルギーにまで加速される結果、10 MeVを超えるガンマ線が放射されることが明らかになった。しかし、電場があるとはいえ、どのような物理的条件により、密度が濃くエネルギー損失の大きい大気中で電子が相対論的エネルギーに加速されるのかについて未だ観測的に明らかになっていない。加えて、近年、雷や雷雲からガンマ線のみならず、中性子や陽電子の生成に関する傍証も得られており、雷や雷雲に関わる高エネルギー事象に注目が集まっている。上記のような雷や雷雲に付随する電子加速に関わる新事象を解き明かすため、冬季の雷や雷雲からのガンマ線観測を2006年度から柏崎刈羽原子力発電所構内で行っている。2015年度まで柏崎刈羽原子力発電所構内の2つの地点で冬季の雷や雷雲からの放射線観測を実施してきた。その結果、より広範囲のガンマ線観測を実施することが電子加速を理解するために必要であるとわかった。そこで今年度、さらに新たな2つの地点に検出器を増設し、広範囲なデータを取得できるようにした。本年度12月上旬から2月中旬まで観測を実施した結果、雷に同期したミリ秒オーダの放射線の増加イベントを観測するとともに、雷雲に由来する分単位の継続時間をもつ放射線の増加も観測した。とくに前者の短時間イベントにおいては、目的としていた陽電子が電子と対消滅したときに放つ511 keVのラインガンマ線を捉えた兆候があった。現在、陽電子生成の兆候が本物どうかをシミュレーションを交えつつ解析を進めているとともに、過去のイベントでも同様な兆候が見られないかを再確認中である。
2: おおむね順調に進展している
2016年度5月、東京電力柏崎刈羽原子力発電所内の規制の強化により、2つある観測地点の装置のうち一つを発電所内の別の場所へ移転した。本研究を遂行する上で、この移転はまったく予期していなかった。移転に際して、発電所職員といくつかの移転候補地を見て回り、移転前の観測地点に比べてより海岸に近い場所を選択した。これは、ガンマ線を伴う雷雲の大半は海側からやってくるため、海岸に近いほど、雷雲ガンマ線が発生を開始する現場を観測できると考えたからである。また今年度は、多地点観測のためにグループで開発した小型の放射線観測装置を新たに2つの地点に設置することができた。この結果、発電所内に海側から内陸に向けて合計4つの観測地点を確保でき、雷雲ガンマ線の広域観測が可能になった。これまで我々のグループでは、継続時間が典型的には1分ほどの放射線の増加現象を深く理解しようとしてきた。本年度は、そうした継続時間の比較的長い事象ではなく、継続時間が1 秒以下と短い放射線の増加現象を理解する取り組みを行ってきた。その結果、継続時間の短い事象から511 keVラインガンマ線の兆候を発見した。我々のグループでの511 keVラインガンマ線の発見は、二例目であった。
(1) H28年度、柏崎刈羽原子力発電所構内に4つの観測地点を構築することができた。これを活用し、雷雲ガンマ線の発生、発達、消滅の様子をより詳細に観測する。それにより、雷雲ガンマ線の放射領域、つまり電子の加速領域の空間構造を制限していく。(2)H28年度の観測の結果、 陽電子生成の証拠となる511 keVのラインガンマ線を捉えることに成功した。以前に我々が捉えた事象では、数十秒の放射時間であったが、今回の観測では放射時間は一秒以内と短かった。何故、このような違いが生まれるのかについてより理解するため、過去のイベントでも同様な事象があるのかどうかを検証していく。(3)本研究の目的の一つである中性子生成の証拠は、まだ得られていない。引き続き観測を続け、直接的な証拠を探査する。そのために、必要な検出器の構築あるいは解析手法の確立を目指していく。
2017年3月に海外出張が急遽決まり、予定していた日本物理学会春季大会に参加できなくなったため。
物理学会や日本惑星連合大会などに国内の学会に参加するとともに、成果をアピールするために国際会議にも参加する。また、当初は想定していなかった中性子とガンマ線を波形分別可能な新たな6Liをドープしたプラスチックシンチレータを購入し、観測に使えるようにする。
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