研究課題/領域番号 |
15K05118
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
泉田 渉 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20372287)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノチューブ |
研究実績の概要 |
本研究では、カーボンナノチューブや量子ポイントコンタクトといったメゾスコピック一次元物質において、量子伝導領域で起こる物理現象を明らかにすることを目的としている。この目的のため、電子の一粒子状態および電子相関効果を理論的手法により調べている。 量子伝導領域におけるナノチューブの電子状態を正確に理解するためには、一粒子状態の定量的な解析が欠かせない。特に実際のナノチューブはマイクロメートル程度の長さであるが、このような有限長の効果はこれまであまり調べられてこなかった。そこで、有限長に閉じ込められた電子がどのような状態を取るのかについて数値的および解析的手法により調べた。 従来は、谷と呼ばれるバンド自由度がよく分離しているものと考えられてきた。本研究では金属型ナノチューブの詳細な解析を行い、ナノチューブの螺旋構造や終端構造、長さに依存して、谷間の結合が起こることを明らかとした。谷が分離している場合には、スピン軌道相互作用による準位分裂が起こること、一方、谷結合によっても準位分裂が起こることを示した。全ての実験において谷分離を反映した4重縮退およびスピン軌道分裂が観測されているわけではなく、大きな軌道分裂が観測される場合もあったが、この理由が、本研究で明らかとした谷結合によるものである可能性を指摘した。 また、特定の角運動量成分を抜き出すことにより様々な螺旋度の金属ナノチューブに対する一次元格子モデルを構築し、有限長における谷間結合の効果を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通り、研究の初期段階で、一粒子状態を明らかにすることができた。また、電子相関効果の研究のためには、従来の谷分離を出発点とした局所電子相関や朝永ラッティンジャー液体理論を超えた、より定量的に電子相関を議論する必要がある。谷結合の効果を含んだ一次元格子モデルは電子相関効果を詳細に調べる際のモデルにもなるが、これを導出することができた。よって、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
量子伝導領域におけるナノチューブや量子ポイントコンタクトの物理現象はクーロンブロッケードや近藤効果、朝永ラッティンジャー液体といった振舞いを示しており、電子相関が重要であると考えられている。だが、従来の理論は、谷分離を仮定しているなど、現実の状況を正しく反映していない。 我々がこれまで明らかとしてきた一粒子状態の詳細に関する知見を取り入れて、電子相関の効果がどのように現れるのかを明らかとしていく。そのため、有効一次元格子モデルに電子間相互作用を取り込むなどした電子状態の数値計算などを通して、電子相関効果を調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行のために計画していた計算機関連機器の購入予定を、一部、研究討論のための旅費などの経費に変更したため、その差額として次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き研究討論のための旅費や計算機関連の物品費として使用する予定である。
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