ディラック分散をもつビスマスの表面効果について、昨年度に引きつづき、議論を行ってきた。そのためにビスマス薄膜構造の電子状態について取り扱った。昨年度研究を開始した、大阪大学のグループによって提案されたビスマスについての新たなタイト・バインディング模型について数値計算を継続して行った。ビスマス薄膜の膜厚を変化させて、スピン分解された状態密度、ラシュバ分裂した表面エネルギーバンド構造、表面スピン分極の向きなどについて計算を行い、ARPESの実験結果との比較を行った。さらに、表面ポテンシャル勾配を考慮したタイトバインディング模型を提唱してきたので、新規に提案されたタイト・バインディング模型への適用も試み、膜厚を変化させたときのスピン分解状態密度などを計算して、実験との比較を行った。 ビスマスナノワイヤについては、これまで石英テンプレートを利用した溶融ビスマスの圧入によってワイヤを作成してきたが、テンプレートに内包されたナノワイヤは、格子圧縮により歪んでいると考えられる。そこで、バルクビスマスで従来から提唱されてきたタイトバインディング模型をもとにして、原子間間隔距離に依存した行列要素を考えることで、テンプレートによる歪みの効果を取りいれた有効モデルを用いた。格子定数を変えて、有効質量やL点電子バンド、T点ホールバンドの相対位置を系統的に調べた。さらに、得られたバンドパラメータを元にして有効質量方程式を解くことで、T点とL点のバンド端とナノワイヤ径との関係を求めた。
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