強相関電子系の相転移近傍に見られる特異な光励起状態について調べること、また半導体においても光励起状態の詳細をスペクトル変化として捉えることを目的として、広波長領域で高感度スペクトル計測可能なマルチチャンネル差分積算分光システムの開発を行った。ノイズを極限まで減らすために必要不可欠な超安定白色光源(ENERGETIQ 社製 Laser-Driven Light Source)を導入し、分光器、CCD、LCVR(液晶可変リターダ)、光学シャッター、超電導マグネットクライオスタットを併用し、極低温(1.5 K)~室温、最大7T の磁場印加下におけるスペクトル計測(300nm~900nm)を実現させた。各装置はLabVIEWプログラムにより制御し、スペクトル計測においては、強度のみでなく、偏光変調も可能とし、右回り偏光と左回り偏光の差を差分スペクトル測定として検出できる機能も確立した。本システムを使用し、磁性半導体CdTe/CdMnTe量子井戸を対象とした磁気分光計測で、ヘビーホール励起子とライトホール励起子両方のゼーマン分裂を明確に捉え、スピンダイナミクスの詳細が得られることを実証した。また、鉛ハライド系ペロブスカイト単結晶を対象とした計測では、微細な高次の励起子遷移の観測と、反磁性シフトの検出に成功し、励起子束縛エネルギー、有効質量、誘電率を導出した。有機 Mott 絶縁体 β'(BEDT-TTF)(TCNQ)結晶では、反強磁性相転移近傍において、レーザー励起下で反射スペクトルが広帯域で変化することを捉え、温度連続可変計測では、スペクトル強度変化が相転移温度で急激に増大することを明らかにした。更に顕微ポンプ・プローブイメージング測定では、反強磁性転移温度近傍で光励起状態の明確な空間拡がりを捉えることに成功した。
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