研究課題/領域番号 |
15K05127
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上羽 牧夫 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30183213)
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研究分担者 |
勝野 弘康 立命館大学, 理工学部, 助教 (70377927)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カイラリティ転換 / ヴィエドゥマ熟成 / カイラル結晶化 / パターン形成 / 準安定状態 / カイラルクラスター / 塩素酸ナトリウム |
研究実績の概要 |
研究目的は,結晶カイラリティの動的転換機構と準安定相の役割を解明することである.溶液中での結晶の粉砕撹拌による結晶カイラリティ転換の現象(いわゆるViedma ripening)は,研究代表者の提唱したカイラルクラスター結晶化のモデルによって理解されたように思われたが,2013年に結晶粉砕なしで温度の循環昇降による同様の現象が見つかり,これがカイラルクラスター結晶化の機構によって実現されうるかを検討することが最初の重要課題であった.さらに準安定相の役割解明を,カイラル結晶化の問題にとどまらず,形態形成における準安定性の問題も視野に入れて研究を行った. 最初,温度循環によるカイラリティ転換の最も簡単モデルとして,ラセミ化(分子レベルのカイラリティ転換)速度と結晶化速度の温度依存性の違いを取り入れた反応方程式型のモデルで計算をした.両者の温度依存性が逆転していれば温度循環によってカイラリティ転換が可能であることを見出したが,有機化学反応の専門家の意見では,この条件が実現されるとは考えにくいとのことであった.次の段階として,結晶のサイズ分布やカイラルクラスターの効果も取り入れられる一般化したベッカーデリング(BD)モデルを構築し,温度の周期的変動に伴う大小クラスター間の質量移動の詳細な検討を行った.その結果,小さなカイラルクラスターを媒介としてカイラリティ転換を促す質量移動が実際に起きることが確かめられた.物理的な過程としては,多数派種のクラスターが急速に結晶化して多数派種の単分子数が減少することがその仕組みである.今後このような異常な現象が起きる条件を明らかにする必要がある. また準安定性の問題では,櫛状ステップパターンの形成において,本来不安定なパターンが先端近くの粒子源の存在によって安定化されることを見出し,パターンの安定性についての新たな知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これだけ早く温度循環によるカイラリティ転換をクラスター成長機構によって導くことができたのは期待以上である.まだ完全な解決かどうかはわからないが,重要な目標が実現できた可能性がある.ただし,粒子源移動によるパターン形成の問題では,初めに考えていたパターン相図の決定が困難であることが判明し,研究の方向転換を必要としている.
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今後の研究の推進方策 |
一般化したベッカーデリング(BD)モデルでのカイラルクラスターにカイラリティ転換をしめせたことは意義深いが,現実の系と比べると,系のサイズは当然ながら桁違いに小さいし,物理パラメタの値もかなり極端なものである.このことを考えるとカイラリティ転換が実現される条件をできるだけ定量的に明らかにする必要がある.まだ具体的なアイデアはないが今後お研究課題として最も重要なことである. また実験ではカイラルな不純物(添加物)によって,鏡像体過剰率(enantiomeric excess)の増加が指数関数的なものから線形増幅に変わるとされており,一般化したBDモデルでこのことが起きるかどうかの検証も転換機構の成否を判断するものとして重要である.添加物効果をモデルに導入することは比較的容易なので,この点については早急に検討する. ステップパターンの研究ではパターン形成の新しい知見を得るなどの成果はあったが,生成されるパターンの「相図」を決めようという目論見はかなり困難であることが分かった.労力に見合う成果が得られないようなので研究方向の転換を検討中である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の所属の移動があり,設置型のワークステーションの購入を止めたため.
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画と大きく変える必要はない. 国際会議もあり海外旅費が必要になる可能性がある.
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