研究実績の概要 |
多様化するトポロジカル物質について、多角的に研究を行っている。本年度はトポロジカル量子ポンプに対する不純物効果について研究を行った他、高次トポロジカル絶縁体の研究に着手した。 トポロジカルな量子ポンプはトポロジカル絶縁体の「時間方向版」である。トポロジカル量子ポンプの理論的な提案はThoulessの論文[1]まで遡るが、最近これが冷却原子系を用いての実験的に実装された[2]。本研究ではそのようなトポロジカル量子ポンプに対する不純物効果について調べ、量子化された電子ポンプが不純物に対してどの程度頑強であるか検証した。 [1] Thouless, D. J., Phys. Rev. B 27, 6083 (1983). [2] S. Nakajima, et al., Nature Physics 12, 296; M. Lohse, et al., ibid. 350 (2016). 従来型トポロジカル絶縁体の研究からやや派生して高次トポロジカル絶縁体の研究に着手した。従来型のトポロジカル絶縁体において、そのトポロジカルな性質はいわゆるバルクエッジ対応の関係に保護されている。この関係は、双極子的な対応関係である。これに対し、高次トポロジカル絶縁体ではその多極子版にあたる対応関係が成り立つ。本研究では、トポロジカル絶縁体等において見られるトポロジカルな性質の階層構造について研究してきた。このような階層構造の例として、強いvs.弱いトポロジカル絶縁体、トポロジカル結晶絶縁体等の例があったが、最近注目を集めている高次トポロジカル絶縁体はこれらとは一線を画す新しい系統の高次トポロジカル物質である。
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今後の研究の推進方策 |
従来型トポロジカル絶縁体の研究から派生して高次トポロジカル絶縁体の研究に着手している。昨年末、アメリカ物理学会誌のPhysics VIEWPOINTに"Topological insulators turn a corner"というタイトルの記事[1]が掲載され、高次トポロジカル絶縁体に関する4つの論文が紹介された。ここに紹介されなかったもう一つの研究[2]を含めて、この高次トポロジカル絶縁体に関する研究がこの1年で急速に進んだ。 いわゆる従来型のトポロジカル絶縁体はバルクがギャップありなのに対し、表面/エッジはギャップレス、つまり金属的である。表面の金属状態はバルクのトポロジカル数によってその存在/非存在や個数が規定されている。このような従来型トポロジカル絶縁体に対し「高次の」トポロジカル絶縁体もあることが指摘され、注目を浴びている。例えば、2次のトポロジカル絶縁体は、バルクがギャップあり、エッジもギャップあり、しかしコーナーがギャップレス、つまり、ギャップレスのコーナー状態を呈する.同様にしてより高次のトポロジカル絶縁体も定義できる.別の言い方をすると、今までトポロジカルに自明と思われていた「通常」絶縁体の中により高次のトポロジカル非自明性を携えた系があることが認識されつつある。 高次トポロジカル絶縁体について、まだ未知のことが多いが、本研究では高次トポロジカル絶縁体の形状に対する安定性、不純物に対する頑強性等を中心に調べていく予定である。 [1] S. A. Parameswaran and Y. Wan, Physics 10, 132 (2017). [2] S. Hayashi, arXiv:1611.09680.
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