研究課題/領域番号 |
15K05132
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
有田 将司 広島大学, 技術センター, 技術専門職員 (20379910)
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研究分担者 |
伊賀 文俊 茨城大学, 理学部, 教授 (60192473)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / 近藤絶縁体 / 角度分解光電子分光 |
研究実績の概要 |
近藤絶縁体表面のバルクエネルギーギャップ内にスピン分離したディラックコーンが形成される”トポロジカル近藤絶縁体”に注目し角度分解光電子分光法(ARPES)を用いて研究を進めている。中でも希土類六硼化物YbB6とSmB6を母物質とする研究を進めている。28年度は、Yb0.9Tm0.1B6とSmB6についてスピン分解ARPES実験を実施したが、明瞭なスピン分離したバンドは観測できなかった。これは、光電子放出強度が弱く観測が困難であったことが原因の一つと考えられ、今後の測定には工夫が必要と分かった。 またSmB6のYb置換物質Sm1-xYbxB6のx=0.0,0.05,0.1,0.8,0.9について、ARPES実験を行った。P偏光を用いた実験では、SmB6はこれまでの報告にもあるEF近傍、E~20meV,160meVにSm 4fバンドが観測され、広い分散でM(-)点周りに電子的フェルミ面を持つSm 5dバンドが、強く4fバンドと混成している様子(c-f混成)が観測された。E~20meVとEFとの間にも、バンド構造が観測され、これがスピン偏極したトポロジカル表面電子状態と考えられる。S偏光を用いると、Γ(-)点にも電子的フェルミ面を持つ電子構造があることが分かった。今後の測定で、これが表面由来かバルク由来かを結論付けたい。 次にx=0.05,0.1についても、ARPES測定を行ったが、SmB6で得られた結果と明瞭な差は観測できなかった。YbB6に近いx=0.8,0.9の観測結果では、強度が弱いがSm 4fバンドのエネルギーは変わらず、B 2sp-Sm 5dバンドのエネルギーが1eV違うことが分かった。またc-f混成の様子は観測されず、合わせて考えると、置換系については、2sp-5dと4fバンドの相対エネルギー位置や、4fの状態密度の大きさとの関係が重要であることが分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度においてTm0.9Yb0.1B6とSmB6のスピン分解ARPES測定を、実施することができた。Tm0.9Yb0.1B6は、YbB6に電子ドープされた系と見做すことができ、ARPES測定でディラックコーンと考えられるバンドが観測されていたが、明瞭なスピン偏極したバンド分散を得ることはできなかった。またSmB6については、EF近傍で同一方向にスピン偏極しているような結果が得られたことから、実験配置、偏光等を考慮した実験、解析が必要であることが分かってきた。結果として、両試料ともスピン偏極したトポロジカル表面バンドである証拠は得られなかったが、今後の課題が見える結果が得られた。高分解能ARPES測定では、Sm1-xYbxB6のx=0.0, 0.05, 0.1,0.8,0.9についての測定を行うことができた。x=0.0, 0.05, 0.1については、劈開表面の質の差程度のスペクトルの違いしか得られず、これらの置換量では、母物質SmB6とARPESの測定結果では、ほぼ同じであることが分かった。よって、バルクの近藤温度の確認とx>0.1 の試料での測定も必要であることが分かった。 一方、x=0.8,0.9については、昨年度、ARPES測定実施したYb1-xTmxB6のx=0.1,0.2と同様にYbに対する置換量が増加すると、Ybは2価で維持され、すべてのバンド構造はほとんど変化せず、リジッドバンドシフトすることが分かった。しかしながらSm 置換の場合、強度が弱いが同じエネルギー位置のE~20meV,160meVにSm 4fバンドが観測された。しかしながら、c-f混成の様子は観測されなかった。このような、RB6(R= Sm,Yb,Tm)のいくつかの置換量での測定を行い、電子構造の変化の様子が分かり今後の課題も見えてきている為、研究は概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
RB6(R= Sm,Yb,Tm)のいくつかの置換量でのARPES測定、Spin分解ARPES測定を行ってきて、電子構造の変化の様子や、実験条件が分かってきた。スピン偏極したトポロジカル表面状態を測定するには、SmB6からの置換系を中心に進めることが妥当と判断し、29年度は、Sm1-xYbxBの0.1<x<0.8について高分解能ARPES測定を行い、E~20meVに存在するSm 4fバンドとB 2sp-Sm 5dバンドの変化について、観測を行う。これまでのARPES測定からx<0.1は、観測される電子構造に、変化が無かった。また、YbB6側であるx>0.8では、B 2sp-Sm 5dバンドとYb 4fbバンドはエネルギーシフト以外は、構造に変化が無かった。YbB6 とSmB6 は、4fバンドを除くB 2sp-Sm 5dバンドが広い分散を持つ構造をしているが、エネルギー位置が1eV程度異なる。x=0.8,0.9においても、Sm 4fバンドはE~20meV,160meVに存在したため、置換量によっても変化しないと考えられ、元々予測していた4fバンドのエネルギー位置が変化は起こらない。よって、29年度は、特にc-f混成強度の変化に注目する。x= 0.8,0.9では、c-f混成強度は弱く、5dバンドが4fバンドと単に交差する様子が観測されるのみである。一方、x<0.1では、非常に強い混成が見られたことから、この中間組成で低下する変化が予測される。このときのバンドの相対エネルギー位置も注目する。また、スピン分解測定を行ない、明瞭に変化が観測される組成とSmB6の注目するバンドのスピン偏極度を分析することで、xの増加に伴うc-f混成強度の低下、それと共にスピン偏極度が低下するかに注目し研究を進め、近藤絶縁体表面のスピン偏極したトポロジカル表面状態の物理的知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
スピン分解角度分解光電子分光測定を実施したが、試料ホルダーと試料固定用基板は、装置担当者より提供いただいた既存のものを利用できたため、新規作成を要さなかった。また、試料冷却は、極低温まで冷却すると表面劣化の恐れがある為、必要無い場合は、10K 程度までで抑え、さらに、装置の冷却能力が高く、予想よりも使用量が少なかった。 最近、SmB6も劈開ではなく、スパッタ・アニール法で清浄表面の準備を行えることが報告されれ、[001]だけでなく[111]も測定できる表面を作製できる。このことから、29年度は、スパッタ・アニール法での表面準備も試みる予定であり、Mo試料ホルダー、試料固定用具の新規製作も行いたいと考えており、そのために予算を残した。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度は、Sm1-xYbxB6の中間置換物質(0.1<x<0.8)の研究を進めるため、原料、ガス等の育成の為の消耗品の購入を予定している。また、試料に合わせた形で、ARPES測定用の試料基板、試料ホルダの製作、劈開用のポスト、接着用の銀ペーストの消耗品の購入を予定している。また、極低温実験を行う為、試料冷却のための寒剤の購入も予定している。得られた成果を日本物理学会と日本放射光学会での報告を行う予定である。更に、スパッタ・アニール法用のMo試料ホルダーと試料固定用具の新規作製を予定している。 得られた成果は、日本物理学会と日本放射光学会、また強相関系光電子分光の国際学会CORPES17で報告を予定している。
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