研究課題/領域番号 |
15K05133
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
一宮 正義 滋賀県立大学, 工学部, 准教授 (00397621)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光物性 / 励起子 / 超高速 / 非線形光学 |
研究実績の概要 |
本計画で取り扱う光と励起子の長距離結合では励起子のコヒーレンスが高まるほど非線形光学応答の効率が高まるため、薄膜試料の品質向上が最優先事項である。そこで、分子線エピタキシー(MBE)法と比べて成膜に要する時間が短い真空蒸着法によって様々な条件下での成長・比較を繰り返すことにより、光と励起子の相互作用が強いCuClの薄膜をCaF2基板上に作製する場合に品質が高まる成長レート及び基板温度を明らかにした。その結果、真空蒸着法においても通常のMBE法で作製したものに肉薄する高品質薄膜を作製することが可能になり、この成長条件をMBE法に電子線照射を取り入れた独自の成膜法に適用することにより、CuCl薄膜の更なる高品質化に成功した。 光学実験面では、まず反射スペクトルより得られる位相緩和定数が0.1 meVと以前の水準から半減していることを明らかにし、光学的品質の向上を定量的に示すことができた。また、縮退四光波混合及び光カー効果による非線形スペクトルの測定も行ったが、励起子の重心閉じ込めによる各励起子モードの構造が位相緩和定数低減の効果によってより先鋭化し、高次の励起子モードまで明確に観測できるほどコヒーレンスが拡がっていることを確認した。さらに、光との結合が強いモードが集中する縦波励起子エネルギー近辺を励起すると、最も強い非線形応答効率を示すとされてきた横波励起子共鳴励起より桁違いに強い信号を観測できることも明らかになり、バルク結晶や通常のナノ構造における常識を覆す結果が得られた。光カー効果の測定より非線形屈折率も求めることができるが、カー媒質として良く利用される石英よりも2桁以上大きな値が得られ、高品質薄膜特有の光-励起子長距離結合が実現した系では従来トレードオフの関係にあるとされてきた応答速度及び光学非線形性の双方が高まることを定量的に示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画では、MBE法に電子線照射を取り入れた独自成膜法の改善や非線形光学応答の評価を主要目的としているが、いずれにおいても明確な進展が見られた。 試料作製に関しては、MBE法では多大な時間を要する成長条件の最適化を真空蒸着法を併用することによって短期間で達成し、初年度のみで大幅な試料品質向上に至った。その一方で、膜厚の制御については融点の低いCuClでは基板温度を高めすぎないように注意して再蒸発の効果を抑えることが有効であることが明らかになってきたものの、十分に精度が高い制御には至っていない。なお、基板温度の過剰な低減は品質の低下に繋がるので、バランスを考慮した見極めが必要である。にも繋がりかねないので基板光-励起子コヒーレント結合の更なる増強には膜厚の制御が不可避であり、現状ではこの点に難がある。また、独自技術の電子線照射についても改善の余地があり、極限まで品質を高める製法の確立や膜厚制御精度の向上が今後の課題となっている。 光学測定面に関しては、膜厚及び励起子重心閉じ込めによる励起子モードによって励起光の最適パルス・スペクトル幅が異なることを利用し、励起レーザーのパルス幅を低減してスペクトル幅を広げることよって輻射幅が大きい超高速励起子モードの励起効率を高める工夫を進めた。特に、複数の励起子モードを同時に励起するフェムト秒レーザーを光源に用いた実験では、中心波長を輻射幅が大きいモードが集中する縦波励起子エネルギー近辺に設定することによって非線形応答効率を劇的に高められることを発見し、試料作製面に加えて励起光のパルス幅・中心波長の制御によっても光-励起子長距離結合に起因する非線形光学応答の増強が実現できることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果により、CuCl薄膜の品質改善及び励起光中心波長のコントロールによって非線形光学応答の効率が飛躍的に高められることを確認することができたが、これを更に高めるためには膜質・励起パルス形状制御精度双方の向上が不可欠である。MBEを用いた成膜法における電子線照射に関しては、初年度は従来と同じ照射条件で成長を行っていたため改善の余地が大きく、今後は様々な加速電圧・照射電流による成膜・比較評価を進めることによって最適の照射条件を絞り込んでいく。励起光源については、中心波長の制御に加えてパルス・スペクトル幅の制御も重視していく必要があるが、使用できるレーザーの関係上パルスの圧縮及びスペクトル幅の拡張には限度があるため、ある励起子重心閉じ込めによる励起子モードの輻射幅が極大となる膜厚では光-励起子間結合が弱くなると考えられる。そのため、現有のレーザーに適した膜厚の薄膜を得ることに尽力し、試料作製時の最適基板温度も明らかにする。その際は初年度と同様、高頻度での試料作製が可能な真空蒸着法も併用することにより、短期間で成果を捻出する。なお、光-励起子長距離結合効果は励起子が安定して存在できる物質であれば発現すると考えられるため、大気中の水分等による劣化に強い上に環境負荷が低く安価なZnO等応用への展開に適した物質についても同様の研究を進めていき、CuClについてもキャップ層の導入、多重量子井戸構造の作製なども行うことによって光デバイス等への実用化への橋渡しとなる研究を精力的に進めていく。 得られた成果については各種国際会議や国内学会等で速やかに公表し、著名な国際誌への論文投稿も積極的に進めていくが、本計画で探求している光-励起子長距離結合効果の専門内外への認知度はまだ十分とは言えないため、大学ホームページ等における研究紹介も充実化していく。
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