研究課題/領域番号 |
15K05136
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研究機関 | 長岡工業高等専門学校 |
研究代表者 |
松永 茂樹 長岡工業高等専門学校, 一般教育科, 教授 (70321411)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / 水溶液 / 超イオン導電体 / 溶融塩 / ガラス転移 / 熱伝導度 / 温室効果ガス / 誘電率 |
研究実績の概要 |
本研究では、分子動力学法(MD)によって、海水のモデルとしての塩化ナトリウム水溶液に、温室効果ガスである二酸化炭素やメタンが溶解した場合の構造や熱物性の変化を考察した。さらに汚染物質である硫酸ナトリウムや硝酸ナトリウムが溶解した場合の錯体形成等について考察してきた。また、有機物の水溶液による二酸化炭素の吸収についても、溶液の物性の変化や、分子の振動モードについて考察した。電解質水溶液における静的な誘電率については、正負イオンまわりに配向する水分子モデルを用いて、分子論的な立場から検討を行ってきた。具体的な適用例として、海水濃度を含む種々の濃度のNaCl 水溶液に対して、誘電率がNaCl 濃度と共に減少することを示し、実測値ともよく一致することを報告してきた。 一方、AgIを添加した超イオン電導ガラスである (AgI)x(AgPO3)1-x 系は、ガラス転移温度が低く、室温におけるイオン電導度は液体電解質と同程度である。また、中性子散乱実験によってガラス転移の前後で構造が大きく変化し、ガラス状態でPO4 のネットワーク構造が形成され、AgイオンはPO4とAg-Oボンドを作りながら、移動していくと考えられる。今回我々は(AgI)x(AgPO3)1-x 系に関して、イオンの分極と遮蔽効果を考慮したポテンシャルを用いて、融体とガラス状態における構造や輸送係数等の変化について考察した。次に、貴金属ハロゲン化物とアルカリ金属ハロゲン化物の混合系のうち、特にガラスの網の目構造を形成するP,B,Mo 等の酸化物を含まずにガラス転移を起こして室温で超イオン導電体となる銀ハロゲン化物とアルカリハロゲン化物の混合系であるAgI-AgCl-CsCl 系の融体とガラス転移について構造と輸送現象の変化をMDを用いて考察した。また、ガラス転移前後の電子状態の変化についても第一原理計算によって考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電解質水溶液については、温室効果ガス、硝酸イオン、さらに硫酸イオンが海水に混入した場合について考察した。溶質の形状と電荷は量子化学計算ソフトGaussianを用いて決定し、輸送係数のイオンの濃度による変化を考察した。特筆すべき事項として、実験的に得られているイオン電導度は、MDによってNernst-Einsteinの関係から予想されるイオン電導度の約1/3程度であった。これは溶液中に錯体が形成され、イオン伝導が阻害されるためであると考え、回転相関関数を用いて錯体のlife time を推定した。また、グリシンの水溶液による二酸化炭素の吸収について、構造と輸送現象の変化をMDを用いて考察した。さらに第一原理計算によってグリシンと二酸化炭素の結合を再現し、結合エネルギーを見積もった。 溶融塩混合系に関しては、当初予定していた炭酸溶融塩混合系についてはすでに多くの先行研究が行なわれているため、MDによる研究が行なわれていない系を先に実施することにした。今回は室温近傍でガラス転移して超イオン伝導ガラスとなるAgI-AgPO3系についてMDによる研究を行い、ボロノイ多面体解析等によって転移温度以下での構造はガラス状態の性質を示していることを確認した。さらに、溶融塩混合系では、特に貴金属ハロゲン化物とアルカリ金属ハロゲン化物の混合系の内,ガラスの網の目構造を形成するP,B,Mo 等の酸化物を含まずにガラス転移を起こして室温で超イオン導電体となる銀ハロゲン化物とアルカリハロゲン化物の混合系であるAgI-AgCl-CsCl 系について、融体とガラス転移による構造と輸送現象の変化を求め、電子状態の変化についても第一原理計算によって考察した。 平成27年以降これまでに査読論文7報(単著)掲載、学会発表26回(うち国際会議での発表9回)を行ってきた。他に2本の論文の掲載が決定している。
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今後の研究の推進方策 |
溶融塩の研究についは、当初予定していた炭酸溶融塩混合系についてはすでに多くの先行研究が行なわれているため、MDによる研究が行なわれていない系について実施してきた。今後は燃料電池の電解質やセンサーへの応用が期待される硫酸塩混合系である Li2SO4-Na2SO4系についてさらに研究を進め、構造や熱力学的性質について考察する予定である。先行研究では、固相でLiイオンとNaイオンの分布と拡散の仕方が、ほぼ同様であるという結果と、分布が異なるという、相反する結果が示されている。また、陽イオンの拡散のメカニズムについても幾つかの説があり、我々のMDシミュレーションによってどのような結果が得られるかに興味が持たれる。 一方、有機物の水溶液の研究については,安全な生物電池として有望なグルコース、乳酸、グリコール酸等の水溶液についてもMDによる研究を行う予定である。グルコースは溶液中で構造が大きく変化することが知られている。また、乳酸、グリコール酸は生分解性ポリマーを形成することでも知られ、生体内や皮膚の表面で動作するバイオ電池への応用が期待される。有機分子のイオンの形状と電荷を量子化学計算ソフトGaussianを用いて決定し、MDを用いて溶液中の水分子とイオンの位置関係を推定する。輸送係数、粘性係数等の輸送現象や動的性質についても考察する。さらに溶液の電気的性質である誘電率についても考察する。これまで有機物の水溶液の誘電率に関する考察は多くはなく、興味ある結果が得られるものと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、校務等の都合で予定していた液体関係の国際会議等への参加を見合わせたためである。
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備考 |
Researchmapに研究内容、発表論文等を記載 https://researchmap.jp/read0060953/
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