研究課題/領域番号 |
15K05137
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
橘 信 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (40442727)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 物質探索 / 高圧合成 / 単結晶育成 / 比熱 / 熱伝導率 |
研究実績の概要 |
本研究では、8 GPa、1700℃までの高圧、高温条件を用いた超高圧合成法や、新規なフラックスや育成条件を用いたフラックス法により、新しい強誘電体酸化物の探索を行った後、詳細な構造解析および誘電率、誘電分極、ラマン散乱、赤外吸収などの測定実験を行い、新しい強誘電体材料を見つける。これに加え、遷移金属イオンや希土類金属イオンを含む新規な磁性絶縁体を超高圧下やフラックス育成などにより探索する。また、リラクサーを代表とする鉛系ペロブスカイト型強誘電体で現れるナノスケールやメゾスコピックスケールの不均一構造と巨大な圧電効果については近年研究が進んでいるが、同じような振る舞いを示す非鉛系ペロブスカイト型強誘電体についてはほとんど分かっていない。したがって、リラクサー的な振る舞いを示す非鉛的ペロブスカイト型強誘電体の良質な単結晶をフラックス法や溶液引き上げ法で育成し、熱伝導率や比熱といった熱測定の系統的な精密測定を行うことにより、これらの物質で現れる得意な振る舞いを調べ、鉛系ペロブスカイト型リラクサーとの共通点や異なる点を明らかにする。 当該年度は、超高圧合成により、ペロブスカイト型の結晶構造やパイロクロア型の結晶構造を持つ新規な酸化物の探索を中心に行った。ABO3の一般組成式を持つペロブスカイト型酸化物や、A2B2O7の一般組成式を持つペロブスカイト型酸化物は、同じ組成式をもつ別構造の酸化物よりも、密度が大きい。したがって、これらの酸化物は高圧下で安定化されることが期待され、実際これまでにも多くの新物質が高圧合成によって見つかっている。当該年度に行った集中的な探索により、幾つかの新規なパイロクロア型酸化物が見つかり、現在物性測定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、超高圧合成による新物質探索を中心に進めており、すでに幾つかの新規なパイロクロア型酸化物を見つけるのに成功した。これらは、誘電体として興味深い性質が期待されるだけでなく、磁性イオンを含んでいるので、幾何学的フラストレーションを示す磁性体として新規な振る舞いが現れることが期待される。超高圧合成で得られた新物質は、これまで比熱や磁化率の測定を行い基本的な性質を明らかにし、さらにカナダのマクマスター大学のグループなどとの共同研究により中性子非弾性散乱やμSRなどの測定を行った。これらの実験から、非常に興味深い結果が得られ、現在さらに研究を進めている。また、金属的な電気伝導率を示す新しいパイロクロア型酸化物を得ることに成功し、現在物性測定を進めている。 さらに、現在までにフラックス法による単結晶育成が進んでおり、多くのビスマス層状強誘電体やタンタル酸カリウムにいろいろな金属イオンをドープした強誘電体の良質な単結晶を得ることに成功している。これらの単結晶については、比熱や熱伝導率の測定を行い、ナノスケールやメゾスコピックスケールの不均一構造と圧電効果や強誘電性との相関関係を明らかにすることを目指している。また、改良を重ねたキャパシタンス法による精密な熱膨張率測定を行った結果、非常に得意な振る舞いを見出した。 これらの状況を省みると、現在までの進捗状況はおおむね順調に進んでいると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
高圧、高温条件を用いた超高圧合成法については今後も同様に進め、パイロクロア型やペロブスカイト型の結晶構造を持つ新規な酸化物の探索を行う。これについては現在と同じように進めれば問題ないと考えている。また、フラックス法による単結晶育成についてもこれまでと同じように進めるが、フラックスや育成条件の改良により、さらに良質で大型の結晶の育成を目指す。これまでに単結晶が得られていない物質についても、適切なフラックスや育成条件の探索を行い、単結晶化を目指す。 物性測定実験についてはこれまでと同様に進めるが、得られた単結晶のX線構造解析も合わせて進める。さらに、国内外の共同研究者の協力のもと、ラマン散乱や赤外分光実験、さらに中性子非弾性散乱の実験を進める。また、比熱測定と熱伝導率測定を合わせた解析を多くの強誘電体について進め、ナノスケールやメゾスコピックスケールの不均一構造と巨大な圧電効果についての関係の一般性を明らかにする。
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