研究課題/領域番号 |
15K05138
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
館山 佳尚 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, グループリーダー (70354149)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物性基礎論 / 表面・界面物性 / 触媒 / 化学物理 / 計算物理 |
研究実績の概要 |
導電性"半導体電極"を用いた電気化学反応は、電極触媒やリチウムイオン電池充放電など様々な過程で用いられる重要反応です。この反応を理解するには電圧印加時の界面電子・ホール分布による空間電荷層、界面イオン分布による電気二重層の挙動の理解が必要不可欠です。近年、電圧印加時の”金属電極”界面に対する第一原理計算手法は提案されてきましたが、”半導体電極”界面特有の物性を考慮した手法はほぼ皆無といってよいでしょう。そこで本研究課題では、連続体モデル等の組み合わせによる電圧印加時の空間電荷層と電気二重層を精度よく記述可能な第一原理計算手法を構築し、導電性"半導体電極"―溶液界面におけるキャリア・イオン移動反応を題材にその実証を行うことを目的としています。
計算手法開発に関しては、平成27年度にテスト計算まで実行した枠組みについてさらなる定量化を進めました。しかしながら、電極―電解液界面における界面電荷の記述法や連続体モデルとの融合において最適な手法がまだ見つけられていない状況です。これに関しては平成29年度に引き続き検討を行います。基礎理論側は地道な作業を行っている一方で、応用・実証計算テーマでは平成28年度に予定していた電極触媒界面におけるプロトン吸着・脱着の効果に加えて、平成29年度に予定していたリチウムイオン電池の電極―電解質間のイオン移動についても現行技術で解析することを始めました。その結果、酸化物触媒界面におけるプロトン移動のメカニズム、電極・固体電解質界面におけるイオン欠乏層成長メカニズム、さらに界面イオンポテンシャルの実証といった新規な成果を得ました。そのうち幾つかの研究テーマは論文発表まで到達しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算手法開発に関しては、バイアス印加手法の開発、その変化に伴う界面電解液側のヘルムホルツ層の変化は定性的に示されているように考えられます。ただし電解液分子の揺らぎがある中で、界面電荷や界面キャパシタンスの定量評価を行うには少々微妙な工夫が必要であり、その一般的な手順の確定について現在取り組んでいるところです。
応用・実証計算側については、ひとまず現行の第一原理計算サンプリング技術をもちいて触媒系、リチウムイオン電池系の電極―電解質界面における“イオン”移動の記述に着手しました。触媒系においては酸化還元電位の異なる酸化物と金属クラスターの間ので電子移動とそれにともなうプロトン移動を原子レベルで示すことに成功しました。またリチウムイオン電池系では、界面構造の乱れによる界面ポテンシャルの変化に関わらず電解質側に低Li化学ポテンシャルサイトが存在しうる、つまりLi欠乏層が形成しうることを示しました。これらについては論文発表まで到達しました。さらにリチウムイオン電池のSEI膜界面においてこれまで報告されなかったような界面ポテンシャルが存在する可能性が見えつつあります。
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今後の研究の推進方策 |
計算手法開発に関しては、引き続き、電解液分子の揺らぎがある中で、界面電荷や界面イオン分布、界面キャパシタンスの定量評価をする手法を電荷の定義や統計平均の取り方などを考慮しながら開発し、連続体モデルとの融合へと進めていく予定です。
実証計算側は半導体電極を用いた電極触媒およびリチウムイオン電池系の電極―電解液界面の平衡状態に関する第一原理サンプリング解析の結果を今後も蓄積しつつ、今回開発した計算手法の適用によるバイアス印加効果の解析へと進んで行く予定です。
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