研究課題/領域番号 |
15K05143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小濱 芳允 東京大学, 物性研究所, 助教 (90447524)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高磁場 / 比熱 / エントロピー / パルス磁場 |
研究実績の概要 |
本申請では、パルス強磁場領域で磁場誘起相転移を示す化合物について、熱測定をプローブとした物性研究を計画し、平成28年度にはCu3Mo2O9、CeRh2Si2、URu2Si2の物性研究を行う予定であった。
しかし詳細な測定の前に、装置の改良が必要であるとの結論にいたり、平成28年度の前期は、(1)3He熱測定プローブの整備、そして(2)高安定化磁場の発生に挑戦した。(1)については、非金属製3Heプローブおよび非金属製4Heデュワーを開発し、これらを組み合わせてやることで、43.5Tという磁場下でも800mKまでの比熱測定が可能となった。(2)の高安定化磁場の発生については、43.5T +-0.005 T;~100ppmという驚異的な安定度を持つパルス磁場をおよそ100ms発生できるようになった。この磁場の安定化に伴って、測定中のノイズも大きく減少できた。特に、磁気熱量効果からくる温度の安定化は顕著であり、比熱測定にふさわしい環境を整えることができたと考えている。 これらの装置開発の結果として、比熱の測定精度と測定確度が格段に上昇した。現在は、43.5Tまでであれば定常磁場とほぼ変わらない精度で比熱測定ができるようになっている。
平成28年度の後期は、当初の対象物質とは異なるが、固体酸素、CeRhIn5およびCu3V2O7(OH)2・2H2Oの熱測定を完了させることができた。固体酸素については既に論文を発表した。またCeRhIn5およびCu3V2O7(OH)2・2H2Oについては、低温・強磁場のみ現れる量子現象の観測を示唆する、かなり興味深いデータが得られた。これらの研究結果については、現在論文調整中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
より良い研究環境を作り出すために、パルス磁場の安定化、低温環境の創生を行い、これに成功した。当初予定したサンプルについては、十分な成果を得ていないものの、異なる化合物群(O2、CeRhIn5およびCu3V2O7(OH)2・2H2O)において、パルス磁場下熱測定を完了した。今後の発展もかなり期待できることから、研究は順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
装置開発が予想以上に上手くいったため、f電子系化合物、量子スピン系化合物を中心に、対象となる化合物が大きく増えた。平成29年度は、これらの新規対象物質の測定を少しづつ進めつつ、計画当初に対象としていた CeRh2Si2などの研究も完了させていく。
現在は低温(800mK)・強磁場(43.5T)・低ノイズ(およそ0.00001V)という、物性測定に最適の環境を作り出せており、これを上手く使い、新しい測定手法の開発などにも意欲的に進めていきたい。 この測定環境についても、更なる高磁場化(~50T)、低温(500mK)の到達を目指し、少しづつ改良していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に購入予定であった物品として、スタンフォードリサーチ社製のプリアンプ(SR560)があった。しかしながら、異なる種類のプリアンプの選定を行っており、この年度は類似のプリアンプ一台の購入にとどまった。このため、次年度使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究計画中に、安定化パルス磁場を発生できるようになった。このパルス磁場発生には、高価なFPGAデバイス、IGBTスイッチなどが必要であり、この費用に使用する。安定化パルス磁場を使うことにより、本申請で使用する比熱測定の精度を大幅に向上できる。
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