研究課題
平成27年度までの高圧Cu-NMR実験(H = 18 T)では、5.4GPaの圧力発生に成功し、Cu核のNQR周波数νQ、ナイトシフトK、核磁気緩和率1/T1、全ての物理量が20 Kで顕著に減少することが明らかになった。NQR周波数の減少は、Ce価数の増大を意味しており、高圧・高磁場下で価数の変化を伴うクロスオーバー現象を見出したと考えている。平成28年度は6GPa以上の圧力を発生させ、27年度に見出されたクロスオーバー現象の圧力・磁場依存性を調べることにした。東北大金研の強磁場施設の20T-CSMを用いて18Tおよび13Tの磁場中でCu核の核四重極周波数(νQ)の圧力、温度、磁場依存性を測定して、Ce価数状態の磁場誘起転移の探索を行った。当初の予定通り6.2GPaの圧力発生に成功し、63νQの温度依存性を測定したところ、18Tの磁場中では40Kで明白なカスプが観測された。外部磁場を13Tに下げると、63νQは40K直下で僅かに減少するものの、その後は温度の低下とともに63νQ は単調に増大することがわかった。磁場の低下により、Ce価数の増大が顕著に抑えられていると考えられる。さらに、6.2GPaにおいても63νQ 、核磁気緩和率、ナイトシフト全ての物理量が40K以下で温度変化することが明らかとなった。価数転移の場合、転移は一次転移であるが、これまでの実験結果はと二次転移的、あるいはクロスオーバーのように見える。より高い圧力や低・高磁場の探索により、明瞭に一次転移が観測されるかどうかが今後の課題である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、強磁場・高圧力下でCe価数状態の変化を精度良く調べることが、目標達成の成否の鍵を握っている。20Tあるいはそれ以上の磁場中でのNMR実験は、東北大学金研の無冷媒超伝導マグネットを利用している。しかしながら、当初は磁場均一度が低いこと、磁場の時間安定性に問題があること、高圧実験は未経験であることが懸念材料として挙げられており、高精度のNMR実験が果たして可能かどうか微妙な状況にあった。ところが、圧力セル中のNMRコイルは非常に小さく磁場均一度は問題にならないこと、コイル銅線のCu核の信号を随時測定して磁場をモニターすることが可能であること等、現在では懸念はほぼ払拭され問題なくNMR測定可能となっている。価数揺らぎ超伝導機構の理論的考察では、磁場誘起の価数転移が予言されているものの、定量的な解析はなされていない。したがって、実験計画の際には、磁場誘起の価数転移が起こる磁場はいくらなのか全く不明であった。これまでの実験から、磁場誘起の(Ce価数増大に起因する)Cuサイトの電場勾配の変化の兆候が7Tから18Tの範囲で観測されたことは、今後さらなる強磁場・高圧領域の研究が実り多いものとなると期待される。
CeCu2Si2の高圧領域(5.4GPaおよび6.2GPa)でCu核の核四重極周波数(νQ)、ナイトシフト(K)、核磁気緩和率(1/T1)、すべての物理量でそれぞれ20Kよび40Kという温度で顕著な減少が見られた。非常に面白いのが、νQが磁場により影響が大きいのに対して、Kおよび1/T1が磁場に鈍感に見える点である。この違いは、νQ が非磁気的な周囲の電荷分布や価数変化に由来するのに対し、K、(T1T)-1が磁気的な要因に由来するのが原因かもしれない。13T、18Tの磁場では、K、(T1T)-1には磁場依存性が見られなかったので、これらの物理量の低磁場領域での磁場依存性を調べることが喫緊の課題である。また、平成29年度は東北大金研において25T-CSMが運転・供用されるので、より高い磁場での実験を計画している。今回の科研費により小型で可搬のNMR装置を島根大学に導入できたので、金研へ装置を陸送して実験を行うことも想定している。5Tから22Tまでの広範な磁場依存性を調べることにより、CeCu2Si2の電場勾配の変化を伴うクロスオーバー現象の全体像を明らかにしたい。また、常圧での臨界圧力4.5GPaの強磁場NMR実験が未だなされていないので、臨界領域の磁場依存性を明らかにすることも計画している。
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