研究課題
本研究の目的は,サブミリメーターサイズの結晶に対応した熱伝導率測定プローブの開発である。この測定プローブの重要な構成要素として,シリコン基板を深堀エッチングすることにより作成する絶縁的な薄膜ーダイヤフラムーがある。このダイヤフラムはSiO2とSiNの多層膜からなる1μmの薄い膜で,あらかじめシリコン基板の表面に成膜しておき,裏面からSF6ガスを用いた反応性イオンエッチングを行って試料の載る周囲のSiを取り除くことで作成される。この上に試料を載せることにより試料を熱的に孤立させて,試料に加えた熱を温度勾配の観測方向へと流すことができるようになる。このダイヤフラムの作成プロセスを昨年度の前半に進めて,作成条件を確定することができた。しかしながら,このプロセスによりシリコンを除去すると,ダイヤフラム上に成膜された温度計やヒーターの箇所で残留応力がダイヤフラムをたわませて,測定の際に支障をきたすことがわかってきた。そこで,昨年度の後半は測定プローブの設計と成膜プロセスの見直しを進めつつ,試作プローブに実装されたヒーター・温度計の性能評価と,試料温度測定用の温度計の高感度化を行なった。その結果,ヒーター・温度計素子の温度特性は,現在の成膜条件で異なるバッチ間でも十分な再現性が得られることがわかった。一方,窒化ニオブのスパッタ成膜時の気圧を調節することで,室温からヘリウム温度領域までの範囲で,温度計の感度を10倍から20倍程度向上することができた。これは,熱伝導率の測定誤差を低減することに直結する。
3: やや遅れている
センサーからの信号線パターンの微細化を行うために,フォトリソグラフィーの際により高精度で位置決めが可能な露光装置を使用する必要があった。しかしながら同装置の操作においてノウハウの蓄積に時間を要したため,試作プローブの歩留まり向上と温度特性の評価に入る時期が遅くなった。現在は,装置の能力を活かした高精細なフォトリソグラフィーが可能になったため,配線不良の大幅な減少を見込んでいる。
試作プローブの評価の際には,温度計の抵抗値とヒーターの電流制御の全てにカンタム・デザイン社の物理特性評価装置(PPMS)を使用していた。しかしながら,印加できるヒーター電流の分解能が100μA程度で細かい電力制御ができないため,外部の微小直流電源よりヒーターに入力するよう変更する。その上で,既知の熱伝導率の温度特性を持つ参照物質を使って,測定プローブの校正を行う。同時に,微小試料の熱伝導率を簡便に測定して広く普及を促進するために,試料接着方法および試料をプローブに載せるためのマウントシステムも開発する。
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Physical Review B
巻: 93 ページ: 115145-1, 7
https://doi.org/10.1103/PhysRevB.93.115145