本研究は,物性測定の中で比較的困難な熱伝導率測定を,サブミリメーターサイズの微小な結晶でも簡便に行う事を可能にする熱伝導率測定プローブを,微細加工技術により開発する事が主要な目的の一つである。最終年度である平成29年度には,28年度までに製作していた試作プローブの改良と測定手法の開発を進めるとともに,文献地の存在する参照試料を用いた性能評価を進めた。 まず,測定プローブの改良については,微細加工により製作している信号配線が断線してしまう不良が多く発生していたため,フォトリソグラフィーの条件を見直す事でこの不良の削減に取り組んだ。その結果,5%程度にとどまっていた最終工程での歩留まりを,70%弱まで向上することができるようになった。 また,これまで使用していた市販の抵抗測定システムに組み込まれているヒーター電源の電流の分解能が,100μAであったために,試料の熱容量が小さい場合には,最低の電流でもヒーターを焼損してしまう問題があった。この問題については高分解能で入力電流を制御できるソースメーターを用いることで解決できた。 29年度後半は,改善された測定プローブを用いた性能評価を進めた。低温で熱伝導率が急上昇するような単結晶試料を用いた測定から,熱伝導率に試料の断面積をかけた量が2 x 10^-7 Wm/K程度までは文献値をよく再現する結果が得られる一方,それ以上に熱伝導が大きくなると文献値を下回る結果となることがわかった。これは,プローブの微細化に伴って,試料の温度勾配を検出するセンサ間隔が狭くなったために,熱伝導率が大きくなる局面で試料中の温度勾配が減少し,測定分解能の限界に達したためであると考えている。一方で,低温で熱伝導率が単調に減少するガラスの熱伝導率を測定したところ,室温から2Kまでの広い温度範囲で文献を良好に再現する結果が得られた。
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