研究実績の概要 |
本研究の目的は、スピン3/2反強磁性交替鎖物質RCrGeO5(RはYまたは希土類元素)の混晶を作製し、2つの交換相互作用の比(交替比)を系統的に変えることで、ボンド交替が強いダイマー状態(SD状態)と、ボンド交替が弱いダイマー状態(WD状態)という2つの異なる非磁性基底状態間の量子相転移が起こることを実験的に検証することである。SD状態とWD状態ともに、第1励起状態との間に有限のエネルギー差(スピンギャップ)が有る。 平成28年度の目標は、基底状態がWD状態である物質を選定することと、混晶の粉末試料を作製し、磁化測定を行うことであった。なお、R=Y, Smの場合、基底状態はSD状態であることは分かっている。 平成27年度までに行ってあった、R=Ho, Er, Ndの試料の中性子非弾性散乱測定の結果の解析を行った。R=Y, Ho, ErのCrの磁気励起は、定量的にほぼ同じであることと、R=Sm, NdのCrの磁気励起も同様に、定量的にほぼ同じであることが分かった。よって、以上の5種類の物質の基底状態はSD状態であることが分かった。反強磁性交替鎖内の隣接するCr-Cr距離は、R=Y, Ho, Erでは、ほぼ同じで、R=Sm, Ndでも、ほぼ同じである。このことは、磁気励起での類似性と合致する。空気中での固相反応法を用いて、様々なRの組み合わせについて、混晶の粉末試料を作製した。完全に単相である試料が得られなかった物質はあるが、全ての物質で、物性測定が可能な試料が得られた。SQUID磁束計を用いて、0.01Tの磁場中での磁化の温度依存性を測定した。
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今後の研究の推進方策 |
基底状態がWD状態である物質を見つける必要がある。残る4つの物質(R = Eu, Gd, Tb, Dy)について研究する。NdCrGeO5と同じ結晶構造を持つNdCrTiO5にも注目している。この物質の反強磁性転移温度は21Kと高いので、小さなスピンギャップ、すなわち、WD状態が期待される。2017年5月25日より、中性子非弾性散乱測定を行い、磁気励起を調べる。NdCrTiO5の基底状態がWD状態であれば、NdCrGeO5との混晶を作製し、量子相転移の研究を行う。その他の混晶試料の研究も引き続き行う。
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