研究課題/領域番号 |
15K05153
|
研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
松尾 衛 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究員 (80581090)
|
研究分担者 |
小野 正雄 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究員 (50370375)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | スピン流 / スピントロニクス / 流体力学 |
研究実績の概要 |
本研究課題ではスピン流と力学運動の交差する角運動量変換の基礎学理体系を理論・実験の両面から確立することを目指す。本年度は、1.液体金属の渦運動によって誘起されるスピン流生成の理論構築を行い、2.その実証実験を行った。 1. 液体金属中のスピン伝導理論構築:水銀やガリウム合金のような液体金属を細管に流すと渦度が生じる。この渦度は電子スピンと量子力学的に相互作用し、この相互作用を通じて液体金属の持つ力学的角運動量が電子スピン角運動量に変換され、スピン流が生成することを理論的に示した。生成されたスピン流は、液体金属のスピン軌道相互作用を通じて、逆スピンホール起電力として電圧に変換される。この起電力信号は流体速度および管形状に対してある種のスケーリング則を満たすことを示した。 2. 液体金属におけるスピン流媒介起電力の実証実験:上記理論予測に基づき、水銀およびガリウム合金を円筒細管に流し、流れ方向の起電力信号を測定した。この電気測定結果は、上記スケーリング則を満たし、逆スピンホール効果の対称性にも整合した。 こうして理論および実験の両面からスピン流媒介の新しい流体発電現象を確立した。これを我々は「スピン流体発電」と名付け、Nature Physics誌に論文発表を行った。本成果はNature Physics、Nature Materials両誌の解説記事およびScience誌のEditor’s choiceに取り上げられ、従来のスピントロニクス分野の対象を液体へと裾野を拡げた「液体スピントロニクス」とも言うべき新分野の創出がなされたと評価された。さらに、この知見に基づき、スピン流体発電の逆過程である、スピン流注入流体駆動の理論構築および実証実験を開始しており、予備データが蓄積されている状況である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スピン流体発電に関しては、当初計画通りに、液体金属中のスピン伝導理論構築および実証実験に成功しただけでなく、次年度に予定していた論文発表まで前倒しで行うことができた。また、逆過程のスピン流注入流体駆動についても理論構築・実証実験を開始しており、予備的な実験データが蓄積されている状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
スピン流体発電に関しては、現在室温で液体状態にある水銀とガリウム合金を用いて、それらの乱流域におけるスピン流媒介起電力測定を行ってきた。理論的は、層流と乱流ではら起電力信号のスケーリング則が異なることが予測されるため、今後は、層流域においても系統的な実験を行う。加えて、流体系と電子スピン系との間の角運動量相互変換効率、金属液体のスピン伝導に関する各種の物質パラメタを理論および実験の両面から定量的に決定する。 スピン流注入流体駆動に関しては、現在、極めて簡略化した現象論的模型を用いて実験系の設計指針を行い、予備的実験を進めている。今後は、スピン流体発電の知見によって得られる物質パラメタの決定プロセスを考慮しながら、より精密な理論構築を行い、系統的実験につなげる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度では、当科研費申請時に行ってきたスピン流体発電の予備実験環境の改良によって検証データを揃えることができたため、一旦このデータだけで論文をまとめるように計画変更した。その結果、当初予定していた流路製作費および数値シミュレーションソフト購入等は、次年度に持ち越すことになった。
|
次年度使用額の使用計画 |
当初平成27年度に予定していた、スピン流体発電およびその逆過程の実験系の設計と実験データ解析のための数値シミュレーションソフト購入および、流路作成を平成28年度中に行う。
|