本研究課題ではスピン流と力学運動の交差する角運動量変換物性を理論・実験の両面から確立することを目指している。最終年度である本年度は、1. 非平衡グリーン関数法を用いた、液体金属流体におけるスピン流生成の微視的理論の論文出版、2.表面弾性波を用いたスピン流生成の実証実験、3.スピン伝導現象におけるスピン流ノイズの基礎理論構築を行った。 1. 前年度に構築した、非平衡グリー ン関数法を用いた微視的理論を論文にまとめ、Physical Review B誌に出版した。 バルク金属中の電子の集団運動として、ドリフト速度が渦度を持つような平均場が、個別励起電子に対してスピン依存するゲージ場として働き、スピン・渦度結合とよばれる相互作用を通じて、スピン流を生成する機構をKadanoff-Baym方程式と呼ばれる 量子運動論的方程式をもちいて理論的に明らかにした。 2. 上記1.における、電子のドリフト速度が渦度を持つような系の一例として、表面弾性波によって誘起される局所回転運動を用いたスピン流生成の実証実験に成功し、Physical Review Letters誌のEditors' suggesionに選出された。 3. Pt/YIG接合系を典型例とする、非磁性金属/強磁性金属接合系界面のスピン伝導に伴うスピン流ノイズの基礎理論構築を行った。スピン流とその揺らぎを測定することによって、界面における発熱量を見積もる理論提案を行い、Physical Review Letters誌に掲載された。これは、今後この基礎理論を拡張し力学運動とスピン流の交差現象におけるスピン流ノイズの研究へと発展させる足がかりとなる。
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