研究課題/領域番号 |
15K05154
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
佐賀山 基 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (90436171)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マルチフェロイック / 磁気励起 / X線磁気回折 / 円偏光X線回折 |
研究実績の概要 |
本研究課題は螺旋磁性強誘電体におけるスピン秩序と強誘電性の動的相関を微視的に解明し、エレクトロマグノンと呼ばれる電気磁気素励起の描像を得ることを目的としている。平成27年度には代表的な螺旋磁性強誘電体であるTbMnO3の非弾性中性子散乱実験を行い、その磁気励起が単純なスピン波励起のみは理解できないことを明らかにした。Mnスピンと格子、Mnスピンと希土類イオンの磁気モーメントにおける結合が重要な役割を果たしていると考えられるが、明瞭な解を得るには至っていない。TbMnO3の巨大電気磁気効果ではTbの磁気モーメントとMnスピンの相互作用が大きな役割を担っていることが指摘されており、その理解を進める上で本研究の結果は重要な情報を与える。 平成28年度は引き続き上記の非弾性中性子散乱実験の結果について解析を進めた。それと並行して、TbMnO3と同じペロブスカイト構造を有する磁性強誘電体であるRFeO3(Rは希土類イオン)に着目し、研究を行った。RFeO3は磁場による電気分極反転に加えて電場による磁化の反転が報告され、注目されている。TbMnO3より単純な形で遷移金属イオンのスピンと希土類イオン磁気モーメント、格子が結合して強誘電性を発現していると期待されているので、その微視的な機構解明を行うことでTbMnO3についてより理解が進むと考えている。まずは希土類イオンが磁気モーメントを持たないYFeO3について円偏光X線回折実験を行い、Feスピンと格子との結合を微視的に明らかにした。希土類イオンが磁気モーメントを有する磁性強誘電体(TbDy)FeO3と(TbGd)FeO3について同様に円偏光X線回折実験を行うことを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TbMnO3の非弾性中性子散乱実験の結果について解析を進め、磁気的なΓ点である(0 0.27 1)近傍の非弾性中性子散乱スペクトルについてはMnスピンのスピン波励起とTb磁気モーメントの結晶場励起にて実験結果をおおよそ再現することに成功している。しかしながら、結晶学的なΓ点近傍(L=0)では、Mnスピン波励起に加えてパラボリックな磁気励起が観測されていて、上記の描像では再現できない。Mnスピンと格子、Mnスピンと希土類イオン磁気モーメント間の相互作用を考慮したモデルを構築し、解析を進めている。 磁性強誘電体であるRFeO3ではFeスピンと格子との相互作用で弱強磁性が発現し、Feスピンと希土類磁気モーメントとの相互作用により強誘電分極が発現すると考えられている。磁気変調波数が非整合なTbMnO3とは異なりFeスピンと希土類磁気モーメントがともにG型反強磁性構造をとるため、円偏光X線回折実験により格子系との干渉を測定することで、格子、Feスピン、希土類磁気モーメント間の相関について情報を得ることができる。まずは希土類が磁気モーメントを持たず単純な弱強磁性を示すYFeO3について円偏光X線回折実験を行い、Feスピンと格子との結合を微視的に明らかすることを目指した。弱強磁性相において(141)反射の円偏光X線回折を測定し、円偏光の回転方向により弱強磁性の方向と格子歪の変調位相を決定した。その結果、強磁性磁気モーメントの反転によりスピン配列の位相がπ変わることを実験的に確認することに成功した。次に磁性強誘電体(TbDy)FeO3について同様に円偏光X線回折実験を行ったが、 X線照射による試料温度の上昇により目的とする強磁性強誘電相での測定には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、TbMnO3の非弾性中性子散乱実験の結果について解析を進める。これまでは自ら作成したプログラムで解析を行っていたが、SPINW等既存のソフトウエアを導入することでより複雑なモデルを用いた解析が可能になった。Mnスピンと格子、Mnスピンと希土類イオンの磁気モーメントの相互作用を有効的に取り込んだモデルを用いて解析を進める。論文執筆を行い、査読有の英文誌への投稿を行い、年度内の掲載を目指す。3月に開催されるAmerican Physical society のmeetingに参加し、成果報告を行う。 磁性強誘電体(TbDy)FeO3と(TbGd)FeO3の円偏光X線回折実験を行う。具体的には、(141)反射を磁気強誘電が実現する温度において観測し、磁場、電場、温度を変化させながら円偏光X線の回転方向依存性や直線偏光X線の偏光方向依存性を観測する。そのために冷凍機の冷却効率を上げる技術的な工夫を行い、強誘電相(~2.5K)での放射光X線回折測定を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度に購入したX線回折用のカウンターキャリアが中古品を探したために安く購入できたため、支出を押さえることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
論文作成の諸費用と成果発表のための旅費として支出する予定である。
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