研究課題
f電子を持つ希土類・アクチノイド化合物は,磁気・電荷・多極子秩序,異方的超伝導など特色ある量子物性の宝庫である.本研究課題では,結晶構造に空間反転対称性がない物質,カゴ状化合物,幾何学的フラストレーションを持つ構造など特徴的な結晶構造をもつ化合物にフォーカスして結晶構造に由来した物性を調べること,およびその物性測定手段を開発することを目的としている.今年度の研究実績は以下の通りである.1.昨年度、単結晶育成に成功した、結晶構造に空間反転対称姓をもたないBaNiSn3型正方晶UIrSi3の低温、磁場中における物性を電気抵抗、比熱、磁化測定などから明らかにした.TN=42Kの反強磁性体UIrSi3は25K以下でc軸方向に磁場をかけると一次のメタ磁性転移を示す。この転移は昇磁過程と消磁過程で非対称な磁化の飛びを示しており、反転対称性のない結晶構造と関係していると考えられる.第一報としてPhysical Review B誌に論文を投稿し最近受理された.2.f 電子系化合物で最もポピュラーな結晶構造ThCr2Si2型正方晶をもつEu化合物(EuT2X2)の圧力下での電子物性研究をさらに進め、EuCo2Ge2における圧力誘起価数転移を明らかにした。前年度までの研究と合わせてレビュー論文を執筆した。また、EuCu2Ge2では他の多くのEu化合物反強磁性体と異なり、反強磁性転移温度が圧力に対して一度ピークを持ち減少するDoniachの相図のような振る舞いを示すことがわかった。3.カイラル構造を持つ反強磁性体Ce5Si4の単結晶育成に世界で初めて成功し、比熱や電気抵抗の詳細測定により磁気相図や異方性などを明らかにした。電子状態ではカイラル構造に起因すると思われる特異な物性も見られており今後詳しく調べていく予定である.
2: おおむね順調に進展している
UIrSi3の磁気相図、低温での一次のメタ磁性が二次のメタ磁性転移に変わることを明らかにし、低音相では反転対称性を持たない結晶構造を反映した特異な磁気ヒステリシスが現れることを明らかにした。この三重点(28K, 5.8T)が圧力でどのように変化していくかを調べたところ圧力とともに高温、低磁場へシフトすることがわかってきた。またカイラル構造をもつ反強磁性体Ce5Si4の単結晶育成に成功し、基礎物性について論文を投稿するなど研究は概ね順調に進んでいるといえる.
最終年度はUIrSi3の磁気構造の解明のための中性子回折実験に着手する。現在、国内の研究炉は停止中であり、J-Parcはウラン化合物の取扱許可がないことから国内でウラン化合物の中性子回折実験を行うことはできない。フランスのラウエ=ランジュバン研究所の研究炉での中性子回折実験のプロポーザルが認められたので、年度早々に単結晶を用いた中性子回折実験を行う予定である。また超高圧下における物性実験も進めていく。最終年度になるためこれまでの研究に関する論文の執筆など研究総括も進めていく.
圧力セルに使用する部品について改良のため設計変更をしたため製作に少し時間がかかり翌年度に持ち越されたため若干の次年度使用額が生じました。次年度の早いうちにこれらの部品製作を行い、次年度に使用するブリッジマンアンビルセル、ダイヤモンドアンビルセルでの高圧下物性研究をこれまでと同様行なっていく。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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