研究課題/領域番号 |
15K05156
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
本多 史憲 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (90391268)
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研究分担者 |
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 圧力下物性測定 / ウラン化合物 / 希土類化合物 / 非対称スピン-軌道相互作用 / 超伝導 / 磁性体 |
研究実績の概要 |
f電子を持つ希土類・アクチノイド化合物は,磁気秩序や異方的超伝導など特色ある量子物性の宝庫である.本研究課題では,結晶構造に空間反転対称性がない物質,幾何学的フラストレーションを持つ構造など特徴的な結晶構造をもつ化合物にフォーカスして結晶構造に由来した物性を調べることを目的としている. 本年度はキラルな結晶構造を持つ複雑な反強磁性体Ce5Si4、菱面体晶を持つ超伝導体CeIr3、結晶構造に反転対称性を持たないウラン化合物反強磁性体UIrSi3、希土類化合物で初めて見つかったスキルミオン相候補物質であるEuPtSiなどを中心に、様々な物質の電子状態の研究を極低温、強磁場、高圧力という複合極限環境下において行なってきた。Ce5Si4では結晶構造を反映していると思われる複雑な磁性状態が確認された。またCeIr3の超伝導は基礎物性測定からは従来型のs波による超伝導が示唆されているが、上部臨界磁場の異常な角度依存性などが見られており、非従来型超伝導の可能性も排除できないということがわかった。UIrSi3で見られた非対称なヒステリシスを持つ奇妙なメタ磁性について、ホール効果などの測定を進め、1次相転移から2次相転移へ変わる三重臨界点における電子状態の変化について詳細に調べた。 Eu化合物に関する特筆すべき成果は、EuCu2(Si(x)Ge(1-x))2 での物理的圧力や元素の置換による化学的圧力を加えた場合に、磁気転移温度ははじめ圧力とともに増加するが、他の多くのEu化合物と異なりピークを示した後減少に転じ、消失していった。4f状態が比較的に局在していると考えられるEu化合物においては珍しい現象であり、CeやYb化合物などで見られる遍歴4f電子状態との類似性からも注目される。ただし、EuCu2Ge2の磁気的な量子臨界点における極低温での電気抵抗測定からは超伝導の兆候は見られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結晶構造に反転対称性を持たないUIrSi3の単結晶育成に成功したが、非対称なヒステリシスを示す奇妙なメタ磁性の解明のためのUIrSi3の磁気構造の決定はとても重要である。2018年度にフランスのラウエランジュバン研究所で中性子回折実験を行う予定であったが、課題採択時期の関係で、この実験が2019年度以降にずれ込むことになった。また作成したUIrSi3の純良単結晶について奇妙なメタ磁性やフェルミ面の性質の解明のため量子振動測定などさらなる実験が必要であるが、実験施設のマシンタイムの関係やウラン試料の国家間の移送手続きに時間がかかり、実験を行う日程が2019年度になった。 また新たに見つかったウラン化合物の新奇超伝導体UTe2の超伝導機構の解明は急務であるが、極低温、強磁場、高圧力のいわゆる複合極限環境下での実験が必要である。これらの実験は多大な時間が必要であるため本プロジェクトの分担者や研究協力者、国際共同研究により効率的に進めている。 さらに反転対称性を持たない超伝導体LaNiC2のミクロ物性研究(臨界磁場, μSR)も年度内に行う予定であったが多量の単結晶試料の作成が必要となった。上記のようなことから研究期間の延長を申請している。
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今後の研究の推進方策 |
UIrSi3の電子状態の解明のため低温、磁場下における中性子回折実験、量子振動実験を行う。現在、国内の研究炉は停止中であり、大強度陽子加速器施設(J-Parc)はウラン化合物の取扱許可がないことから国内でウラン化合物の中性子回折実験を行うことはできない。これによりフランスのラウエ=ランジュバン研究所の研究炉での中性子回折実験を行う予定である。UIrSi3の量子振動測定はフランス国立強磁場研究所のI. Sheikin主任研究員とフランスGrenobleの強磁場施設(LNCMI-G)で行う予定であるが、まずはドイツのDresdenにある強磁場研究所Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorf(HZDR)で予備実験を行うこととした。ここで現在の単結晶試料により量子振動が観測されればより強磁場を用いることのできるLNCMI-Gでフェルミ面の詳細について研究を行い、大きなスピン軌道相互作用を持つウラン化合物の反転対称性欠如によるフェルミ面の分裂について明らかにする。 また、新奇超伝導体UTe2の超伝導相図やスピン三重項超伝導のメカニズムを明らかにするため、強磁場・高圧下における物性実験を進めていく。強磁場実験は、海外の強磁場施設HZDR、LNCMI-G、フランスToulouseの強磁場施設LNCMI-T、と国内の東京大学物性研究所、及び東北大学金属材料研究所の強磁場施設にて、また圧力下実験はフランスGrenobleのフランス原子力庁と東北大学金属材料研究所において申請者が主導して研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
結晶構造に反転対称性を持たないUIrSi3の単結晶育成に成功し、物性測定や中性子回折実験を行なっているが、非対称なヒステリシスを示す奇妙なメタ磁性の解明のため追加実験などが必要となっている。また反転対称性を持たない超伝導体LaNiC2のμSR実験をカナダの加速器施設(TRIUMF)、中性子小角散乱実験をドイツの中性子研究施設(FMR-II)などで行う予定である。 また純良単結晶育成や圧力下物性測定を続け、特殊な結晶構造に起因する新奇な物性を丹念に調べていく。 これらの実験やその解析のための研究打ち合わせ、結果の学会発表、論文執筆のため次年度使用額が生じた。 実験に使用する原材料や、圧力発生装置の消耗品、実験や学会参加のための旅費、論文投稿料などに使用する。
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