研究課題
本研究の目的は四極子(軌道)自由度を有する非磁性のPr系化合物であるPrTr2Al20(Tr=Ti,V)における四極子秩序と超伝導を圧力によって制御し、四極子秩序の抑制や重い電子超伝導発現およびフェルミ液体から逸脱した新奇な量子現象の起源を明らかにすることである。2年目となる今年度は初年度にPrV2Al20の高圧下・磁場中において見出された非フェルミ液体的挙動に関して、反強四極子秩序が圧力によって完全に消失する圧力領域にまで範囲を広げて磁場中電気抵抗測定を行った。その結果、圧力印加によって四極子自由度と伝導電子の混成効果が増強されることを見出し、非フェルミ液体からフェルミ液体へと移り変わる特性磁場および四極子近藤格子モデルから評価される特性温度の圧力変化を評価することに成功した。また強四極子秩序の量子相転移を示すPrTi2Al20との比較により、四極子秩序および四極子近藤効果の特徴的エネルギースケールの大きさの違いによって秩序相の消失に伴うゆらぎと四極子近藤ゆらぎのいずれかが支配的となり、相図上において非フェルミ液体的な振る舞いを示す領域の顕著な違いとして現れることを見出した。これらの実験事実は重い電子系物質における従来型の量子相転移現象には見られない四極子自由度を有する系に特徴的な振る舞いである。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の目標の一つであるPrTr2Al20(Tr=Ti,V)の圧力相図の全体像はほぼ明らかとなりつつある。また、PrV2Al20において見出されたスケーリング則および四極子近藤ゆらぎを反映した非フェルミ液体的挙動は、四極子自由度と伝導電子との混成効果に起因した大変興味深い現象である。さらにPrTi2Al20との比較により、特徴的なエネルギースケールの違いが特異な電子状態の発現に与える影響を明らかにした。今後は10GPaを超える圧力域での物性測定を行うことで、四極子秩序の消失に伴う異常物性と超伝導との相関に関して包括的な知見が得られると期待される。以上の点を総合的に判断して「おおむね順調に進展している」と判断した。
最終年度となる来年度は高い静水圧性を維持しながら10 GPaを超える高圧域まで安定的に到達できるような圧力セルの改良を行う。四極子秩序の量子相転移が観測される圧力域から四極子近藤効果が支配的となる高圧力領域も含む幅広い領域での高圧相図の完成させることにより、この系の電子状態に関する包括的な理解を目指す。また四極子秩序が消失する臨界圧力付近において、希釈冷凍機温度域までの上部臨界磁場および常伝導状態における温度依存を精密に測定し、秩序相やゆらぎの効果の差異が超伝導特性に与える影響を調べる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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