研究課題/領域番号 |
15K05164
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柳瀬 陽一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70332575)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 空間反転対称性の破れ / スピン軌道相互作用 / 奇パリティ多極子 / FFLO超伝導 |
研究実績の概要 |
近年マルチフェロイクスやスピントロニクス、空間反転対称性が欠如した超伝導、など様々な研究分野において、空間反転対称性の破れに起因する諸現象の研究が行われてきた。なかでも空間反転対称性が欠如した結晶においては相対論的なスピン軌道相互作用により電子の内部自由度が非自明に絡み合い、興味深い輸送現象やエキゾチックな超伝導を生み出すことが知られている。最近、大局的には空間反転対称性を保存しているけれど原子サイトの局所対称性が欠如した物質、即ち局所的に空間反転対称性が欠如した物質においてもスピン軌道相互作用に由来する新現象が存在することが示された。そのような研究を進展させることが本研究課題の目的である。
今年度は局所的な空間反転対称性が欠如した系における超伝導・磁性・多極子秩序の研究を行い、以下のような成果を得た。 (1)重い電子系超伝導体の代表例として、またスピン三重項超伝導の候補物質として知られるUPt3においては、非共型結晶対称性に保護されたラインノードが存在することが示されている。その結果自体は群論に基づいて得られたが、ラインノードが生じるメカニズムは未解明であった。本研究において、局所的な空間反転対称性が欠如した系に特有の副格子依存型反対称スピン軌道相互作用がその起源であることを示した。 (2)局所的な空間反転対称性が欠如した系では通常の共線的な反強磁性磁気秩序が空間反転対称性を自発的に破ることがある。そのような場合の磁気秩序は奇パリティ磁気多極子秩序に分類される。本研究では奇パリティ磁気多極子秩序と共存するエキゾチックな超伝導状態を調べた結果、磁気4極子秩序状態ではゼロ磁場でFFLO超伝導が安定になることが明らかになった。 (3)2層ラシュバ系において前方散乱効果が引き起こす秩序状態を調べた。その結果、スピン軌道相互作用によって奇パリティ電気八極子秩序が安定になることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果により、局所的に空間反転対称性が欠如した物質においてスピン軌道相互作用が誘起する新奇な量子相を幾つか同定することができた。本研究課題のテーマに沿った成果が得られているので、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に行った研究では、局所的に空間反転対称性が欠如した物質においてスピン軌道相互作用が誘起する新奇な量子相を同定した。今後はそれらの量子相が示す電磁気学的特性を解明し、物質の新機能を開拓する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究においては、既存の計算機および外部のスーパーコンピューターを利用することができたので物品費を必要としなかった。来年度に高性能の計算機を購入することにより研究の効率を上げることができるので、一部を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
数値計算用の計算機を購入する。また、研究成果を国内外の学会等で発表するために旅費および学会参加費等を使用する。
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