近年、様々な研究分野において、空間反転対称性の破れに起因する諸現象の研究が行われてきた。さらに最近では、大局的には空間反転対称性を保存しているけれど原子サイトの局所対称性が欠如した物質、即ち局所的に空間反転対称性が欠如した物質においても新現象が示された。その研究を進展させることが本研究課題の目的である。研究期間全体を通じて以下のような研究成果を得た。 (1) 磁気十六極子秩序の発見と特異な電磁応答の解明 群論的な分類に基づいてBaMn2As2の磁気16極子秩序を同定した。その特徴的な応答として、電気磁気効果、反強磁性エーデルシュタイン効果、磁気圧電効果を予言した。なかでも、磁気圧電効果はこの研究により発見された応答であり、新しい圧電デバイスへの応用も期待される。のちに行われた実験により磁気圧電効果が実際に発見された。 (2) 多極子秩序相の分類学 多極子秩序相の群論的分類学を完成した。その結果から、電気磁気効果、エーデルシュタイン効果、磁気圧電効果、非相反電気伝導が起こる多極子相を分類した。また、120を超える物質の多極子秩序変数を同定し、実験研究へ道を開いた。 (3) 反強磁性スピントロニクス 現在のスピントロニクスデバイスは強磁性体を用いているが、反強磁性スピントロニクスの将来性に注目が集まっている。私達は電気的な書き込みと読み出しが可能な反強磁性体が持つべき対称性を特定し、それが奇パリティ多極子秩序相に他ならないことを示した。さらに、50を超える候補物質を提案した。 (4)多極子超伝導 多極子秩序と密接な相関があるエキゾチック超伝導を示した。(i)多極子秩序によるFFLO超伝導、(ii)SrTiO3における強誘電超伝導、(iii)磁気多極子揺らぎによるトポロジカルスピン三重項超伝導、などが挙げられる。 以上のうち(3)と(4)-(iii)が今年度に得られた成果である。
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