研究課題
有機ディラック電子系α-(ET)2I3およびα-(BETS)2I3では、電子間相互作用の値のエネルギースケールがバンド幅よりも大きいため、電子相関効果が重要な役割を果たしていると考えられている。これらの系では低温かつ低圧の領域で絶縁体化し、その近傍では特異な輸送現象やスピン揺らぎが観測されている。本研究ではこれらのメカニズムの解明を目的とした研究を行った。α-(ET)2I3では横ストライプ電荷秩序相転移近傍におけるゼーベック係数の非単調な温度依存性のメカニズムを解明した。理想的な2次元ディラック電子系のゼーベック係数は温度比例するが、α-(ET)2I3では転移温度近傍において鋭いピーク構造と符号反転を示す。本研究ではバンドの電子-正孔非対称性が分子間クーロン相互作用により増強されることを示し、これによりゼーベック係数の非単調な振舞いが説明できることを解明した。α-(BETS)2I3では絶縁体化機構の正体の解明を目的とした研究を行った。α-(BETS)2I3ではスピン軌道結合による2 meV程度の小さなギャップがディラック点に開いており、明確な相転移も観測されないため、α-(ET)2I3とは異なるメカニズムで絶縁体化していると考えられている。本研究では第1原理計算によりスピン軌道結合や遮蔽効果を考慮したクーロン相互作用を考慮した拡張ハバード模型を構築し、平均場近似で扱った結果、スピン軌道結合による小さなギャップが次近接分子間クーロン相互作用のFock項により低温で増大し、相転移を伴わない絶縁体化が起きることを見い出した。このメカニズムは他のディラック電子系で議論されてきた相互作用誘起の量子スピンホール状態と密接に関係している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
Physical Review B
巻: 107 ページ: L041108
10.1103/PhysRevB.107.L041108
巻: 105 ページ: 205123
10.1103/PhysRevB.105.205123
巻: 105 ページ: 205145
10.1103/PhysRevB.105.205145