研究課題/領域番号 |
15K05167
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小林 義明 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60262846)
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研究分担者 |
伊藤 正行 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90176363)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / 局所対称性の破れ / ネマチック状態 / 核磁気共鳴 / 鉄面内異方性 |
研究実績の概要 |
我々はこれまで鉄系超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2のx=0~0.08に対してAs-NMRによりAsサイト電場勾配のFeAs面内方向の異方性を調べ、結晶全体より低い対称性が電場勾配の対称性の表れを明らかにし、この原因について議論した。本研究は、NaFeAsとLiFeAsを研究対象として、、同様な測定を行った。 NaFeAsは、Ba(Fe1-xCox)2As2(x=0.05)と同じ構造相転移温度Ts~50K及び反強磁性転移温度TN~40Kを持ち、LiFeAsはBa(Fe1-xCox)2As2(x=0.08)と同様に、構造相転移と反強磁性転移を示さず、超伝導転移のみを持つ。NaFeAsとLiFeAsは共に、Ba(Fe1-xCox)2As2のx=0.05と0.08とは異なり、FeAs層を乱すCoがないために、非常にシャープなAs-NMRスペクトルを得ることが出来た。そのため、NaFeAsとLiFeAsに対して、Asサイト電場勾配のFeAs面内方向の異方性の小さな変化まで、捉えることに成功した。LiFeAsではLi NMRによるLiサイト電場勾配も調べたところ、Asサイトのような電場勾配のFe面内異方性が見られなかった。このことは、結晶格子の局所的な異方性以上に、Asのp電子軌道の対称性が局所的に歪んでいることを示す結果である。このように、結晶構造の変化を低温でも示さないLiFeAsは、室温でも小さいが有限な結晶全体より低い対称性を持つ局所構造を持ち、自発的に歪んだ電子状態が実現していることが明らかとなった。また、構造相転移を示すNaFeAsも、LiFeAsより大きな、結晶全体より低い対称性を持つ局所構造をTs~50K以上室温でも示すことを明らかにした。 今後、NaFeAsにおいて、TN~40K以上、Ts~50K以下の温度域を中心に、静的、動的磁気特性の異方性がどのように系に現れるのかを調べ、構造の局所異方性と合わせて系の電子状態を議論する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予想したように、LiFeAsとNaFeAsにおいて、As-NMRスペクトルの精密な測定結果を得た。これは、Asサイト電場勾配のFeAs面内方向の異方性がどんなに小さくとも、明瞭な変化を追いかけること可能としている。この事情から、BaFe2As2系で得られたAsサイト電場勾配のFeAs面内方向の異方性の1/10であっても、十分な温度変化を調べることに成功した。これにより、LiFeAsとNaFeAsいずれにおいても、室温付近でも明瞭なFeAs面内異方性があることを明らかにし、これが温度降下により、徐々にであるが増大することを明らかにした。NaFeAsはBaFe2As2でFeサイトにCoを5%ドープしたものと同じ電子状態あり、そして、LiFeAsはBaFe2As2で8%Coをドープしたものと同じであると考えられるが、このことは、これまでのBa(Fe1-xCox)2As2のx=0~0.08に対する研究結果と矛盾なく、Ba(Fe1-xCox)2As2ドープ効果にマスクされた部分を明らかにできた。これは、これまでBa(Fe1-xCox)2As2で超伝導相の有無とFeAs面内異方性を議論してきたが、その結論を支持する重要な結果である。現在、論文投稿用の原稿稿を執筆しており、初年度にこれを完了できなかったために、「おおむね順調」の判断を示した。 さらに、CaFe2As2系のNMR用単結晶試料の作成に成功し、アニール温度の変化による反強磁性相と大きく磁性が抑制された正方晶相に変化させることに成功した。これは今後に大きな進展に結びつくものである。
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今後の研究の推進方策 |
NaFeAsにおいて、TN~40K以上、Ts~50K以下の温度域を中心に、静的、動的磁気特性の異方性がどのように系に現れるのかを調べ、構造の局所異方性と合わせて系の電子状態を議論する。実際には、As NMRナイトシフト、及び核磁気緩和率のFe面内異方性を見ることにより、局所構造が異方的になったFe面上で、異なる主軸方向での、磁気状態の異方性を調べる。これは、反強磁性転移の有無、超伝導転移の有無が、磁気状態の異方性とどのように関わり合うのかを明らかにできる。これらにより、反強磁性転移や超伝導転移は、結晶構造の対称性より低い電子状態と競合するのか、協調するのかを判断し、鉄系の磁気特性、輸送特性に現れるFe面内異方性がゆらぎとして、鉄系全体に存在するのかどうかを明らかにしたい。 CaFe2As2系のNMR用単結晶試料作成の成功、及び、その基底状態の制御を行うことができたので、これらを使って、異なる基底状態を持つCaFe2As2の局所構造にどのような違いがあるのか、結晶構造の対称性より低い電子状態があるのかどうかを調べる。このCaFe2As2の系はCaを3価のランタノイドイオンへの置換、あるいはAsを等価数であるがイオン半径の違いから化学圧を加えることができるPへの置換により、超伝導を出現させることができる。このCaサイトのLa(Pr)置換、AsサイトのP置換の単結晶作成を試みる。これらはCaFe2As2系の結晶構造の対称性より低い電子状態がある場合には、超伝導との関係を明らかにできる。
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次年度使用額が生じた理由 |
CaFe2As2の結晶作成が予定通り進められた。そのために、今年度はこれ以上の、試薬の購入を抑えることとなった。今年度予定していた論文投稿、掲載のための費用を次年度に回すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
CaFe2As2試料を用いて、次年度にNMR測定が行えるように、寒剤費用として、本年度に回すことを決めた。また、次年度から回した論文投稿、掲載のための費用を使用する予定である。
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