研究課題
本研究では,非破壊型パルスマグネットとダイヤモンドアンビル圧力セル(DAC)を組み合わせた,パルス磁場中・高圧力下輸送現象測定装置を開発し,圧力誘起超伝導転移を示す鉄系超伝導体の母物質(BaFe2As2など)の上部臨界磁場およびその異方性を調べ,この物質群の超伝導発現機構の解明に向けた指針を得ることを目的としている。輸送測定の手法として、従来の四端子法による電気抵抗測定だけでなく、新たにトンネルダイオード振動(TDO)法による表面インピーダンス測定も実施している。前年度までに、クライオスタット、測定系の組み立ておよびTDO回路の製作を実施し、鉄系超伝導体のFe(Te,Se)の表面インピーダンス測定を実施した。その結果、Ni-Cr-Al合金製のDACおよび金属(SUS316)製のガスケットを用いると、ヘリウムガス雰囲気中ではパルス磁場中では渦電流の発生に伴うジュール発熱があることが分かった。パルス強磁場と高圧力を組み合わせた実験環境では、このジュール発熱を除去することは困難であるので、本年度はパルス磁場発生中の試料の物性(今の場合は電気抵抗)の温度変化も合わせて評価することを試みた。予備実験として、カーボンペーストあるいはRuO2ペーストで作製した温度センサーを用いて、パルス磁場発生中の各部品の温度を測定した。40 Tまでのパルス強磁場発生時に、液体ヘリウムによる蒸発冷却環境下(4.2 K)では温度変化はほとんど観測されなかったが、ヘリウムガス雰囲気中では最大で20 K程度の発熱が観測された。また、ジュール発熱の低減を目指して、ダイヤモンドパウダーとエポキシ樹脂を用いた非金属製ガスケットの試作も実施した。これらの結果を日本物理学会第72回年次大会で報告した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、パルス磁場中・高圧力下の電気抵抗測定およびTDO測定を鉄系超伝導体Fe(Te,Se)やLi(NH3)FeSeについて実施した。また、パルス磁場発生時に金属製部品に生じる渦電流に伴うジュール発熱の評価も実施し、本研究における新たな課題も見出されており、概ね順調に進展している。
Ni-Cr-Al合金製DACと金属ガスケットの組み合わせでは、ヘリウムガス雰囲気中におけるパルス磁場発生時のジュール発熱が無視できないことが分かった。そこで次年度は、数十ミリ秒の短い時間スケールで試料温度を計測することで、パルス磁場発生時の温度変化も考慮した物性値の評価を可能にすることを目指す。また、発生圧力の上限が多少低くなってしまうが、本年度より試作している非金属ガスケットの実用化を目指す。
少額であるので、「学術研究助成基金」のルールに従い次年度に繰り越した。
研究計画書に従い、消耗品・旅費等に使用する。
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