研究課題/領域番号 |
15K05174
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
佐藤 仁 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (90243550)
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研究分担者 |
有田 将司 広島大学, 技術センター, 技術主任 (20379910)
大原 繁男 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60262953)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | cf混成 / 近藤効果 / 価数揺動 / 基底状態 / イッテルビウム / 光電子分光 |
研究実績の概要 |
Yb系近藤格子の基底状態は,定性的に,cf混成が小さい場合はRKKY相互作用により磁気秩序を示し,大きい場合は近藤効果により非磁性フェルミ液体となる.YbNi3X9(X=Al,Ga)は,同じ結晶構造,類似の伝導電子状態をもつにも関わらず,YbNi3Al9は前者,YbNi3Ga9は後者に属する.我々は硬X線光電子分光(励起エネルギー6000 eV),低エネルギー光電子分光(励起エネルギー7 eV)により,Yb 4f電子状態と伝導電子状態密度(c-DOS)を明らかにし,c-DOS中のフェルミ準位(EF)とYb 4fホール準位の位置関係,および,EF近傍でのc-DOSの形状の観点から,基底状態を説明する電子状態モデルを考案した.本研究では,物質系を拡張し,考案したモデルの普遍性の検討と拡張を行う. 本年度は,YbNi2X'2(X'=Si,Ge)について単結晶育成を行い,硬X線光電子分光を実施した.YbNi2Si2は反強磁性体,YbNi2Ge2は非磁性で,近藤温度はTK~2.3 K,TK~30 Kと見積もられている.この傾向はYbNi3X9と同様だが,非磁性のYbNi2Ge2のTKは,同じく非磁性のYbNi3Ga9(TK~600 K)と比較して非常に低い.このことは、YbNi2Ge2は近藤効果優勢領域にあるものの,よりRKKY優勢領域に近い事を示している.Yb 3d硬X線光電子分光からYb価数を見積もったところ,X'=Siでは温度によらずv~2.97,X'=Geでは300 Kでv~2.89で,降温とともに2価に近づく傾向を示した.また,X'=Siで,Ni 2p内殻ピークは高結合エネルギー側に,Yb3+ 4fピークは低結合エネルギー側にシフトし,YbNi3X9と同様な振る舞いが観測された.X(Al,Ga),X'(Si,Ge)の違いによらず,考案したモデルが成立していることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画に従って,YbA2X'2(A=Ni,Pd;X'=Si,Ge)単結晶の育成を行い,先に良質な単結晶が得られたA=NiについてSPring-8・BL15XUで硬X線光電子分光を実施した.その結果,YbNi3X9と同様の電子状態モデルで,YbNi2X'2の基底状態の変化が定性的に説明可能であることが分かった.YbPd2X'2およびYb2Ir3Ga9についてもテスト測定を実施しており,解析に十分なスペクトルが取得できることを確認した.また,広島大学放射光科学研究センター(HiSOR)・BL1およびBL9Aにおいて,低エネルギー角度分解光電子分光を行い,Yb2Pt6Ga15について良質なスペクトルの取得に成功した.フェルミ準位近傍のYb 4f局在バンドと,伝導電子のバンドとの混成に起因すると思われるバンドの分裂が観測され,4f電子間のクーロン相互作用を無視した周期的アンダーソンモデルで解析を行い,バンドの形状からcf混成エネルギーの定量的な見積もり(130 meV)に成功した.また,Yb2Pt6Al15に対しても,強度は弱いものの,角度分解光電子スペクトルの取得に成功している.以上の理由から概ね順調に進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究実施計画と同様な方法で,現在結晶育成がすすんでいるYbPd2X'2(X'=Si,Ge),Yb2Ir3X9(X=Al,Ga)を中心に研究を推進する.育成したこれらのYb化合物に対し,SPring-8・BL15XUにおいて,硬X線光電子分光を実施し,Yb価数の決定と,Yb 4fホール準位,伝導電子のX,X'依存性に関する知見を得る.広島大学放射光科学研究センター(HiSOR)・BL1およびBL9Aにおいて,低エネルギー光電子分光を行い,近藤ピークの観測を通じて,cf混成状態に関する知見を得る.得られた結果を,これまで得られているYbNi3X9,Yb2Pt6X15,YbNi2X'2などの結果と比較し,基底状態と電子状態が,考案したモデルの枠内で説明できるかどうか検討を行う.Yb2Pt6Al15については,HiSOR・BL1およびBL9Aにおいて,角度分解光電子分光の本測定を実施する.cf混成バンドの直接観測に注力し,周期的アンダーソンモデルを用いたバンド形状の解析からcf混成エネルギーの定量的評価を試みる.フェルミ面マッピングを実施し,得られた結果のX依存性について議論する.全ての結果をとりまとめ,基底状態を説明する電子状態モデルの普遍性の検討と拡張を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
光電子分光測定にあたり,試料固定用基板,劈開用ポストの作成,購入を予定していたが,試料の形状や大きさが,これまで行ってきた測定試料とほとんど変わらず,現有しているものと同一規格の基板を使用することができた.また,測定時における試料の劈開の失敗が少なく,清浄表面の準備が順調に進み,測定試料の消費が多くなかった.よって,基板やポストの消費量は予定していた数より少なく,現有のものでほとんど賄うことができた.しかしながら,より効率良く測定前の準備や実際の測定を行うには,試料ホルダーの形状を実態に即して変更するほうが良いと判断し,物品費の一部を平成29年度への繰り越しとした.
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次年度使用額の使用計画 |
単結晶育成のために,高純度金属および透明石英管などの消耗品が必要である.放射光を用いた実験では,真空部品などの消耗品,試料をマウントするための試料固定用基板,劈開用ポスト,接着剤などが必要になってくる.特に,試料形状に合わせる形で,試料固定用基板,劈開用ポストを作成する.また,測定効率化のため,新規の試料ホルダーの作成を予定している.硬X線光電子分光実験はSPring-8で行うため,実験旅費が必要になる.これまでの結果と今後の方針に関する研究打ち合わせのための旅費の支出の他,これまで得られている成果を,7月にプラハで行われるSCES2017(Strongly Correlated Electron Systmes 2017)で報告する.また,日本物理学会および日本放射光学会での発表を予定している.
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