研究課題/領域番号 |
15K05176
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
楠瀬 博明 明治大学, 理工学部, 専任教授 (00292201)
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研究分担者 |
求 幸年 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40323274)
速水 賢 北海道大学, 理学研究院, 助教 (20776546)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非対称マグノン分散 / 反転対称性の破れ / カイラルソリトン / 反対称スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、スピン軌道相互作用が強い f・d 電子系において、電子相関による自発的な空間・ 時間反転対称性の破れが創出する量子伝導と光学応答を理論的に開拓することである。この目的に対して、次のような成果を得た。(1) 局所的な反転対称性の破れをもつ系において発現するトロイダル磁気秩序状態の励起構造を計算し、波数空間に関して非対称なマグノン分散が発現することを明らかにした。これらは、中性子散乱実験によって確認されつつある。(2) 原子位置で反転中心をもたない格子系において、空間反転対称性の破れを伴う自発的な秩序状態が生じることで、隠れた反対称スピン軌道相互作用が顕在化し、電子状態や電気磁気応答を含む非対角応答に大きな影響を与えることを明らかにした。(3) 多軌道ハバード模型において、電荷の不均一化を伴った自発的な対称性の破れによる反対称スピン軌道相互作用の活性化と、それによる新規なトポロジカル物性を明らかにした。(4) 正四角台塔と呼ばれる低対称なクラスタを有するBa(TiO)Cu4(PO4)4に見られるマルチフェロイックな性質を説明する理論モデルを構築し、磁場中相図を明らかにするとともに、新しい磁気誘電特性を理論的に予言した。(5) カイラル磁性体に対する伝導電子を含んだモデルに対するモンテカルロ計算を行い、カイラルソリトン格子と呼ばれる状態における伝導性と磁性の絡み合いの様子を明らかにした。 以上の成果はいずれも新しいタイプの電気磁気応答のプロトタイプとなる機構を提案している点において重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で掲げた明らかにする5点のうち、(1) ミクロな奇パリティ多極子の表現法の構築: 磁気四極子、トロイダル磁化、複数サイト多量体 などの奇パリティ多極子自由度を統一的に扱うための表現論を、群論、多極子展開を用いて構築する。(3) 揺らぎを含めた多体効果の数値的解明: 多軌道ハバード模型などのミクロな模型に基づき、量子モンテカルロ法、クラスター動的平均場理論などを用いて、秩序の安定性、輸送現象、光学応答に おける揺らぎや多体相関の効果を解明する。(4) 典型物質の解析: 発展させた理論を典型物質に適用し、新奇現象の実験的検証法を提案する、の3点について、おおむね計画通りに研究を推進し、反転対称性の自発的な破れと非対角応答に関する物性を明らかにできている。
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今後の研究の推進方策 |
(2) 奇パリティ多極子秩序と反転対称性の破れの現象論: スピン軌道相互作用と局所的な反転対称 性の破れを取り込んだミニマル模型を用いて、奇パリティ多極子秩序と反転対称性の破れに関する現 象論を展開し、量子 (スピン) 伝導、非線形光学応答などの諸現象を定性的に解明する。(5) 秩序相における新現象の開拓: 反転対称性の破れのもとで生じる、スピン軌道選択型金属絶縁体転移、異常な円二色性光学応答などの新現象を理論的に開拓する、の2点について重点的に研究を進める。 また、多サイトに拡張した多極子の概念を用いた系統的な物性探索の方法について新たな進展があったので、そちらについても予備的な研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数が生じたため
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次年度使用額の使用計画 |
旅費に繰り込み有効に活用する
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