遍歴電子系における磁気量子臨界点近傍の磁気体積効果について、スピンゆらぎの理論(Self-Consistent Renormalization Theory of Spin Fluctuations; SCR理論)の考え方に基づいたMoriya-Usamiの理論が先駆的研究として知られている。しかしながら、Moriya-Usami理論の熱膨張係数と、SCR理論の比熱を温度で積分して得られたエントロピーから導出した熱膨張係数が一致しないことが指摘されていた。一方、繰り込み群の理論により、磁気量子臨界点近傍の熱膨張係数とグリュナイゼンパラメータが量子臨界点で発散することが指摘されているが、その微視的な起源は未解明の状況であった。 そこで、本研究では、遍歴電子系における磁気量子臨界点近傍の熱膨張係数およびグリュナイゼンパラメータを、スピンゆらぎの理論に基づいて正しく計算するための理論的枠組みを構築した。SCR理論で従来考慮されてこなかった零点スピンゆらぎの効果、およびSCRの停留値条件を正しく考慮して、空間次元3次元系および2次元系における強磁性および反強磁性量子臨界点での熱膨張係数とグリュナイゼンパラメータの完全な表式を導出した。これによりSCR理論による比熱と熱膨張係数の表式が熱力学的に一致しなかった問題が完全に解決するとともに、過去の繰り込み群の研究では未報告であった温度に依存する係数が熱膨張係数とグリュナイゼンパラメータの臨界項に存在することを明らかにした。さらに、磁気量子臨界点でのグリュナイゼンパラメータの発散の起源が、スピンゆらぎのモード・モード結合の体積依存性の項に由来することを明らかにした。
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