セリウム3元化合物CeRu2Al10は,従来の反強磁性Ce化合物に比べて5倍高い温度(27 K)で反強磁性秩序を起こす,特異な近藤半導体である。これまでの研究から,異常に高い転移温度の要因には,局所反転対称性の欠如と,Ceがもつ4f電子と伝導電子との異方的c-f混成が重要と考えられる。本研究では,組成の3/4以上を占めるアルミニウム(Al)による伝導3p電子とCe4f電子との混成に注目し,Alを他の元素と置換することで4f電子と3p電子との混成を詳しく調べることを目的とした。 平成28年度までに,Alよりも3p電子が1個多いシリコン(Si)で置換したCeRu2Al10-ySiyと,3p電子を1個減らす亜鉛(Zn)置換系CeRu2Al10-zZnzについて,単結晶試料の作製と磁化率・電気抵抗率・比熱測定を通した物性測定を行った。それぞれの置換効果を,Ru置換系Ce(RuRh)2Al10およびCe(RuRe)2Al10と比較することで,CeRu2Al10ではd電子とp電子が混成して伝導バンドを形成し,4f電子との複雑な混成効果と転移温度増大を生んでいることを明らかにした。 平成29年度では,元素置換効果による研究成果を国際会議等で発表した。論文は現在執筆中である。また,上記置換系の中性子散乱実験が,英国ラザフォード・アップルトン研究所のAdroja教授との共同研究で進行中である。さらに,イギリス・ダラム大学のHatton教授らと共同で行ったCeRu2Al10に対する偏極軟X線共鳴散乱実験では,反強磁性秩序において反強磁性モーメントがc軸から約10度a軸側に傾いているという新しい結果を得た。一方局所反転対称性欠如の影響を調べるため,関連物質の探索を行い,組成比が同じで構造の異なるCeRh2Al10および新たなカゴ状近藤半導体CeRh4Al15を見いだした。
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