研究課題/領域番号 |
15K05186
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
山崎 篤志 甲南大学, 理工学部, 教授 (50397775)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電子構造 / 光電子分光 / イリジウム / 酸化物 / 角度分解 / スピン軌道 |
研究実績の概要 |
本研究では,軟X線励起光電子分光により擬2次元から3次元の結晶構造を有するペロブスカイト型イリジウム酸化物群に対して,バルク3次元分散構造を直接観測し,未だ十分に理解されていない,次元性の変化に伴って発現する種々の異常物性と強スピン軌道結合電子構造との相関を明らかにすることを目的としている.平成27年度には,ペロブスカイト型イリジウム酸化物Sr2IrO4とSr3Ir2O7に対して,軟X線励起角度分解光電子分光実験を行った.実験では波数空間内の定結合エネルギーでの光電子強度分布やブリルアンゾーンの高対称点Γ,M,X間のエネルギーバンドの分散関係を観測することに成功した.Sr3Ir2O7では,ブリルアンゾーンの枠を超えてkz(運動量空間内でのz 軸)方向に伸びた特異な電子構造が観測され、この電子構造がSr3Ir2O7 に特有な結晶構造である2層のIrO2面の結合を反映していることを明らかにした。反強磁性転移温度の上下での電子構造の変化を調べた結果、フェルミ準位近傍で光電子スペクトルの明確な形状変化が観測され、金属絶縁体転移が起きていることを明らかにした。このことは、この系の絶縁性が電子相関に由来するモット的な起源ではなく、反強磁性秩序によるバンドの折り返しに由来するスレーター的な起源を持つことを示唆している。また,Sr2IrO4とSr3Ir2O7におけるjeff=1/2バンドの幅を見積もり,有効飛び移り積分の値がほぼ同程度であることから両者の電子相関の強さに大きな違いがないことが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたSr2IrO4とSr3Ir2O7に対する角度分解光電子分光実験を実施し,3次元電子構造やその温度変化など,詳細な電子構造を議論するために必要なデータを取ることに成功した.また,実験データの解析も順調に進んでおり,理論計算と比較するなどの方法によって詳細な電子構造に関する知見が得られている.また,次年度に行う予定であるSrIrO3薄膜の表面の特性評価も進んでおり,ほぼ計画通りに研究が進んでいると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
研究調書の内容に沿って,3次元構造を有するペロブスカイト型イリジウム酸化物SrIrO3の電子構造を明らかにするため,角度分解光電子分光実験を進めていく予定である.また,実験データの解釈等に必要な理論計算についても着手する.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費の使用額が少ない,また,院生への謝金支出が不要になるなどの理由により,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
SPring-8での放射光利用のための消耗品費や学会での発表のための旅費など,ほぼ計画調書通りの使用計画となる.
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