研究課題
磁性体の“新奇な磁気状態”と考えられている「量子スピン液体状態」は、現実の系が極めて少ないため、実験的理解が難しい状況である。その中において近年、三角格子有機磁性体において申請者らの発見を含めていくつかの候補物質が発見されている。本研究はそれらの量子スピン液体状態の普遍的な熱力学特性を、磁気・熱測定により実験的に明らかにすることを目的としている。昨年度までに、二つの候補物質、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3およびEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の磁気熱量効果測定を行ってきた。その結果、両方の物質で、極低温・磁場中において電子スピン系と格子系との結合が極めて弱くなっていることを突き止めた。このような弱結合状態では、比熱や熱伝導率における電子スピンの寄与を正確に評価できなくなる可能性があり、これまでの解釈に影響を及ぼすかもしれない。当該年度は、Et2Me2As1-ySby[Pd(dmit)2]2の磁気熱量効果を系統的に研究するための前段階として、混成比率y=0.25および0.35の磁気トルク測定を行った。この実験は、混成比率yを変化させたときに反強磁性秩序がどのように消失するのかを明らかにすることを目的としている。先行研究のSQUID磁化測定では、前者において6 K付近で磁気転移が生じる可能性が指摘されている。磁気トルク測定の結果、両方の物質において、低温1.5 Kまで、磁気トルクが二倍周期の正弦曲線で描かれる振る舞いを示し、その振幅が磁場の二乗に比例することがわかった。これらの磁気トルク曲線の特徴は、常磁性状態において見られるものである。したがって、少なくとも1.5 Kまでで、典型的な磁気秩序は生じていないと考えられる。今後、混晶比率yを小さくして磁気秩序相に近づけた物質の測定を行い、磁気秩序が消失する様子を詳しく調べる必要がある。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Nature Communications
巻: 9 ページ: 1509-1-6
10.1038/s41467-018-04005-1
Physical Review B
巻: 97 ページ: 144505-1-9
10.1103/PhysRevB.97.144505
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 87 ページ: 044601-1-6
10.7566/JPSJ.87.044601
巻: 97 ページ: 024505-1-7
10.1103/PhysRevB.97.024505