研究課題/領域番号 |
15K05189
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山瀬 博之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 超伝導物性ユニット, 主幹研究員 (10342867)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物性理論 / 高温超伝導 / 電子ネマチック / 軌道揺らぎ / スピン揺らぎ |
研究実績の概要 |
鉄系超伝導体では、ほぼ等方的な超伝導ギャップが観測される一方、フェルミ面上でノードを持つような超伝導ギャップも観測され、ギャップ対称性がユニバーサルではない可能性が浮上している。このことは、どのような超伝導ギャップ対称性が安定化され得るか、その階層構造がどうなっているか、という大変に興味深い問題を提起している。これらの問題に答えるために、軌道ネマチック揺らぎによる超伝導の可能性に着目し、等方的なギャップを仮定した申請者らの以前の理論を、ギャップの波数依存性を計算出来るように拡張した。フェルミ面をパッチに分割するスキームを用いて理論式を導出し、その数値的解析を行った。パッチの数が多いほど正確に波数依存性を取り込むことができるが、計算時間と計算機メモリの制約から一つのフェルミ面あたり20程度のパッチ数が現実的であった。その結果、超伝導転移温度近傍までEliashberg方程式を解くことに成功した。ホール面と電子面で超伝導ギャップの位相が同じである、いわゆるs++状態が最も安定で、それにほぼ縮退するd波状態が存在する。d波は、ky=kxとky=-kxの軸にノードを持つ。3番目に安定な超伝導は、ホール面と電子面で超伝導の位相が反転するs+-状態であり、それにほぼ縮退するd波状態も存在した。上のd波と同じ対称性であるが、ホール面と電子面での超伝導ギャップ位相の相対的な分布が異なる。波数依存性を取り入れることで、一般には超伝導転移温度が上昇することが期待されるが、その上昇は極めて小さくほぼ無視出来ることも分かった。実際、超伝導ギャップの波数依存性は高々10%未満であり、ほぼ等方的なギャップとしてよく近似できた。 関連する研究として、銅酸化物超伝導体での電荷密度波やハバード模型におけるスパイラル磁性と超伝導の共存と競合、ネマチック相に対する異方性の効果の研究に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
波数依存性を取り込んでEliashberg方程式を低温まで数値的に解析することに成功し、計算結果が揃いつつある。超伝導転移は軌道ネマチック相内でも起こり得るので、その場合に対応した同様な解析を行っている。申請者らの予備的な計算結果によれば、軌道ネマチック相内では超伝導ギャップの波数依存性が極めて大きくなる可能性が示唆されている。その結果、より正確に波数依存性を議論するべく、パッチ数を20以上にすることが望ましい。しかし、その実施は計算時間と計算機メモリの観点から非現実的であるために、パッチの取り方を工夫して計算を行う見通しを得た。
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今後の研究の推進方策 |
軌道ネマチック相内で、より正確に超伝導ギャップ関数の波数依存性を計算出来れば、それを以って平成27年度の実施計画を完全に行ったことになる。時間的には多少の遅れがあるが、ほぼ順調な進捗と言える。次に、軌道ネマチックと反強磁性の二つの相互作用を取り込んだ低エネルギー有効模型を平均場理論で解析し、その相図を確立する。軌道ネマチックのみを取り込んだ平均場相図は既に申請者らによって得られているので、その相図が反強磁性相互作用をゼロから大きくした時にどう変化するかを明らかにする。軌道ネマチックと反強磁性相互作用の強さを自由に変えた場合の相図を作成し、より一般的な観点から両者の協奏を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
謝金としての利用を年度末に計画していたが、残金が不足していたため繰越しを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の物品費として使用する予定である。
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