研究課題/領域番号 |
15K05190
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
辻井 直人 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (90354365)
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研究分担者 |
山岡 人志 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, 専任研究員 (30239850)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 価数揺動 / Yb / ラットリング / 熱振動 |
研究実績の概要 |
希土類イオンの価数揺動とイオンのランダムな熱振動(ラットリング)に相関があると示唆される実験結果が熱伝導率の測定から得られたため、その起源の解明を目的として、放射光を用いたX線分光測定を進めた。これまでカゴ状化合物YbCu9Sn4でYbイオンが顕著なラットリングを起こしていることがわかっているが、この物質におけるYbはほぼ2価であり、価数揺動は起こしていない。カゴ状化合物Yb3Pd20Si6でもラットリングが観測されているが、Ybはほぼ3価で、やはり価数揺動は観測できなかった。価数揺動は4f電子と伝導電子の強い結合をもたらすので、価数揺動が起こらないほうがラットリングが起こりやすい状況にあると理解される。 関連化合物としてYb3Si5, Yb3Ge5, YbCu5などについて、試料作成、物性測定、X線分光測定を行った結果、これらは顕著な価数揺動を示していることがわかった。このうちYb3Si5, Yb3Ge5においては熱膨張が通常の金属よりも小さいことがわかり、価数揺動と格子熱膨張の相関が示唆される。この結果について構造解析と論文作成を進めている。YbCu5においては、圧力によってYb価数が2価に近づくという極めて異常な現象が観測された。この結果は、多くの実験とバンド計算結果とともに共著論文にまとめられ、現在、論文投稿中である。 YbPdSi系においても単結晶による物性測定と中性子磁気構造解析を行い、J. Phys. Conden. Matterから論文発表を行った。また、LaCo5のリフシッツ転移による電子状態の変化を観測することに成功し、Phys. Rev. Bから共著論文を発表した。FeSi(1-x)Ge(x)においても非磁性半導体から強磁性金属への転移の過程でスピン揺らぎパラメーターの増大を見出し、J. Phys. Conf. Ser.から論文が出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ybの価数揺動が顕著なYbCu系化合物において、圧力による異常な価数転移を見出し、論文投稿を行ったほか、Yb3Si5等についても価数揺動と格子の熱膨張の相関を示唆する結果を得て論文作成の準備を進めている。また、カゴ状化合物Yb3Pd20Si6ではYbが価数揺動を示さず、ほぼ3価の状態にあることを見出し、ラットリングと電子状態の相関に関する知見を得た。また関連化合物のYb-Pd-Siにおいて、物性と磁気構造を明らかにし、論文発表を行った。全体として、本課題は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である今年度では、中性子回折によって得たR3Pd20X6の構造パラメーターをもとに、この系の熱伝導率を再解析し、電子状態と希土類イオンの熱振動の相関を明らかにし、論文発表を行う。また、希土類の4f電子状態とラットリングの相関を利用して幅広い分野への波及を目指し、熱電材料としても研究されているカゴ状化合物に希土類イオンをドープする研究を進めている。前年度に試料作成を行ったがドープ量がわずかであることが判明したため、今年度は高圧合成法に精通した櫻井氏の協力を得て、6GPaまでの高圧における希土類ドーピングを行い、物質開発を加速的に進める。さらに放射光X線による吸収分光、X線電子分光を用いてYb価数揺動と熱振動ダイナミクスの相関を系統的に明らかにし、これらの結果を論文にまとめ投稿することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
Ybイオンをドープした新規カゴ状化合物を作成し、放射光X線分光測定と学会発表を行う計画であったが、この化合物は通常の条件ではYbがほとんどドープされないことがわかり、計画に一部変更を行ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には高圧合成法の導入や、別のYb化合物の作成を進めるため、未使用額を適切に使用して、学会発表および放射光X線分光実験のために使用したい。
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