研究課題/領域番号 |
15K05192
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
森 道康 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 主任研究員 (30396519)
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研究分担者 |
小椎八重 航 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (20273253)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 強磁性共鳴 / 薄膜 / 磁気ゆらぎ |
研究実績の概要 |
スピントロニクス研究は応用面のみならず、従来見過ごされてきた基礎物性の問題を提起している。初期の磁気抵抗効果を中心とした研究から、現在は磁気の流れであるスピン流を利用する研究が主流となっている。スピン流生成に寄与するのは、磁性体の一様な磁気励起である。スピン流は,高周波素子への応用にも、新たな道を開こうとしている。そこで重要になるのは、磁化の時間変化である。このような磁化の等方的な時間変化は、強磁性共鳴によって観測される。一方、スピントロニクスの磁気デバイスにおいて、磁性体は微細加工された薄膜の形で利用されることが多い。ここで、薄膜がバルクとは異なった性質となり得る点に注意が必要となる。実際、強磁性体(CoFeB)薄膜の強磁性共鳴において、線幅が温度と共に減少する振舞いが観測された。強磁性共鳴の線幅の要因の一つとして、磁化運動の緩和項(ギルバート緩和)が寄与していると考えられる。しかし、強磁性共鳴の線幅が、温度と共に細くなることは、ギルバート緩和だけでは説明が出来ない。一方、共鳴エネルギーの測定により、膜厚が不均一であることも分かった。この非一様性によって磁気異方性が不均一になり、それが共鳴エネルギーの変化となって観測されるのである。本研究では、この膜厚の不均一性に着目した。不均一な膜厚による共鳴エネルギーの変化は、磁化の縦成分によるものである。それに対して、共鳴線幅の温度依存性は、不均一性を伴った磁化の横揺らぎによるものであることを明らかにした。この結果は、強磁性体界面および磁気異方性の制御が、スピントロニクスデバイス設計にとって重要であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、2次元系や薄膜の磁性体における磁気励起の計算を進めてきた。初年度は、反強磁性体やフェリ磁性体と金属との接合において、電子相関によって磁気励起の線幅が増大し得ることを示した。今年度は、強磁性薄膜における強磁性共鳴の線幅が、磁気ゆらぎによって狭まることを示した。磁化の時間変化というゲージ場が誘起する物理量やその変化について進展が見られた。一方、磁壁やスキルミオンなど、磁化の空間変化によるゲージ場によってもたらされる物性の開拓について、更に推し進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
磁化の時間変化に加え、磁気構造に空間変化が伴うとき、通常の電磁場とは区別される磁性体由来の電場(スピン電場)が提案されている。そして、実際に磁壁の運動に伴う起電力(スピン起電力)が観測されている。スピントロニクス研究は、非平衡定常状態の物理を超え,時空磁気構造の動力学を用いる新しい世代に突入したと言える。このような磁化の時空変化によるゲージ場を、磁性体と金属もしくは超伝導体との接合構造を用いて観測する原理や新たな物性を研究する。また、ワイル半金属など特殊な電子状態では、磁化の時空変化に伴うゲージ場に加えて、電子状態の縮退がもたらす幾何学的位相によって、特異な物性が現れることがある。磁化の時空変化と幾何学的位相による量子輸送現象を探究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果発表として予定していた国際会議への参加が、他業務の都合のため中止せざるをえなくなった。また、新しいアーキテクチャの計算機を購入するため、今年度の計算機購入を中止した。これら旅費と物品費が、次年度使用額が生じた主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度予定されている国際会議で成果発表を行うための旅費として使用する予定である。また、今年度できるだけ早い時期に計算機を導入して、計算を加速させる予定である。
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