研究課題/領域番号 |
15K05193
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
綿貫 徹 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子ビーム科学研究部門, 室長代理(定常) (30343932)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 価数揺動 / 準結晶 / X線吸収分光 / 高圧 |
研究実績の概要 |
我々は、価数揺動準結晶という新奇な系の創出・探索を行ってきた。これまで、希土類元素のYbを含む準結晶合金において、2価と3価との中間価数状態のYbが準周期配列するという系を実現し、非フェルミ液体的振舞いなど特異な現象を見出してきた。本研究では、新たにEu系の価数揺動準結晶および近似結晶(準結晶と局所構造は同一だが、周期構造を持つ物質)の創出・探索を、更なるYb系の新規価数揺動系の創出・探索とともに行っている。 2年目となる本年度は、初年度のAg-In-Eu近似結晶の結果、つまり、高圧下で価数揺動系を実現したものの価数の圧力効果が小さく11万気圧まで加圧した結果、Eu価数は常圧の2価から2.1価までの変化に留まったことを受けて、より大きな圧力効果が期待される常圧でも価数揺動状態のEu系準結晶・近似結晶の探索を行った。そのため、価数揺動Yb系であるAu-Sn-Yb近似結晶をEu置換したAu-Sn-Eu近似結晶について調べた。しかしながら、価数測定の結果はYb系とは異なっており、常圧でのEu価数は2価と価数揺動系を形成していないことが判明した。次に加圧して価数揺動系へ変化させることを試みたが、11万気圧まで加圧した結果は、Ag-In-Eu近似結晶とほぼ同様にEu価数は常圧の2価から2.1価までの変化に留まった。 一方、Yb系の更なる新規価数揺動系の創出・探索においては、Au-Sn-Yb準結晶について、常圧で中間価数状態が実現していることが明らかにした。Yb価数は2.18価であり、Au-Al-Yb準結晶に続いて2例目の常圧でも中間価数状態をとる準結晶となった。また、Au-Al-Yb近似結晶についてAuとAlを置換することにより、Yb価数を置換前の2.8価から置換上限における2.5価まで幅広い価数領域において制御することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Eu系の価数揺動準結晶・近似結晶の探索については、初年度の結果を受けて、予定通りにAu-Sn-Eu近似結晶についての研究を進めた。高圧下の価数測定においては、初年度に行った高圧下のEu L3吸収端近傍のX線吸収分光測定に関わる装置整備を利用して、高圧下における高精度なEu価数評価を予定通り実施した。Au-Sn-Eu近似結晶においてYb系のように価数揺動系を形成しないことや、圧力に対する価数の変化は期待よりも小さなものに留まるなど予想外の結果となったが、Yb系との違いを認識することが出来た。 一方、Yb系の価数揺動準結晶・近似結晶の探索については、Au-Sn-Yb準結晶における2例目となる常圧でも中間価数状態をとる準結晶の発見やAu-Al-Yb近似結晶におけるAuとAlを置換による価数制御といった予想以上の発見が相次いだ。 また、初年度に行った技術整備はYb系の常圧での価数測定にも利用できた。Au-Sn-Yb準結晶の生成量は1mgに及ばず、試料を粉末化する通常の手法による価数測定は困難であった。そこで、100ミクロン径程度の析出粒の一粒を、初年度に整備した高圧発生装置であるダイアモンドアンビルセルを利用して、均一厚みの箔状に加工して高精度に測定を行なうことに成功した。 Eu系の進捗が予想通りではない部分がある反面、Yb系では予想を上回る成果が出ており、総合的には順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
Eu系の価数揺動準結晶・近似結晶の探索については、Au-Sn-Eu近似結晶においてYb系のように価数揺動系を形成しないことが室温で判明したが、低温においては価数揺動系を形成する可能性があるので、その調査を行う。一方、Yb系では、更に新たな価数揺動準結晶・近似結晶が出来つつある。これらの価数評価を進め、新規Yb価数揺動系の探索も本年度同様に推進する。また、Yb価数揺動系では、価数が2価に近いものから3価に近いものまで様々な価数値をとる系が網羅されつつある。Ybの価数値は価数揺らぎの局在性と遍歴性の度合いに関係するので、準結晶・近似結晶で多様な物性を持つ一連の系が揃いつつあることを示している。最終年度は新規系の探索のみならず、これらの物性評価も目標として研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度と2年目となる今年度の合計で消耗品のダイアモンドアンビルが当初予定よりも破損せずに利用することが出来た一方で、次年度の当初予算が消耗品購入にはやや不足の状況であり、次年度に利用することが必要であるため。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品のダイアモンドアンビル等の購入のために使用する。
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