• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実施状況報告書

量子情報理論とテンソル積変分法を用いたフラストレート・ランダム量子多体系の研究

研究課題

研究課題/領域番号 15K05198
研究機関群馬大学

研究代表者

引原 俊哉  群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00373358)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2020-03-31
キーワードフラストレート量子スピン系 / ランダム量子スピン系 / 実空間繰り込み群法 / テンソルネットワーク / 密度行列繰り込み群法
研究実績の概要

二次元ランダム量子スピン系解析に適用可能な、拡張実空間繰り込み群法のアルゴリズムの改良を行った。本計算手法では、ブロック間相互作用、または、ブロック間エンタングルメントを定量化した物理量を用いて、繰り込み操作を行うブロックペアを選定し、系が一つのブロックになるまで繰り込み操作を繰り返し行うが、そのブロックペア選定の基準として用いる物理量には、様々な選択肢がある。我々は本年度の研究において、このブロックペア選定に用いる物理量として複数の量を試し、計算の精度・効率を比較することで、計算に最適なブロックペア選定基準を特定し、計算コストを抑えたまま、計算精度を飛躍的に向上させることに成功した。この結果は、与えられたランダム量子スピン系の基底状態を記述するために最適なテンソルツリーネットワークの構成を可能にする成果として、大きな意義を持つものである。
二次元フラストレート強磁性体におけるスピン・ネマティック相の実現についての研究も行った。強磁性ダイマーをユニットとした二次元フラストレート量子スピン系に対して、摂動論、平均場近似、多変数変分モンテカルロ法、SU(4)対称点周りの理論的解析などによる研究を行い、この系において、スピン・ネマティック相を含んだ多様な基底状態が実現されることを示した。さらに、広いパラメータ空間における基底状態相図を決定し、特に二スピン間交換相互作用のみしか持たない系においても、スピン・ネマティック相が実現されうることを明らかにした。この結果は、四スピン相互作用などの、実現が比較的困難な相互作用を含まない系において、スピン・ネマティック相を実現するための指針を与えるものとして、意味のあるものと言える。
また、異方的相互作用をもつ一次元フラストレート量子スピン系における、Landau-Ginzburg理論で説明されない新奇量子臨界相転移の研究も行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成30年度の研究における最も重要な進捗としては、拡張実空間繰り込み群法のアルゴリズム改良が挙げられる。このアルゴリズムの重要なステップである、繰り込み操作を行うブロックペアの選定について、当初はブロック間のエンタングルメント・エントロピーを用いた選定を想定していた。しかし、本年度の研究において、ブロック・ハミルトニアンのエネルギー準位から構成した様々な量を比較検討することで、エネルギー準位に基づいたブロックペア選定でも、ブロック間エンタングルメント・エントロピーを用いた計算と同程度以上の精度を実現しうることを見出した。この結果は、本アルゴリズムの計算効率を飛躍的に(計算時間として数倍から数十倍のファクターで)向上させるものであり、本年度計画時の想定を超える成果であると言える。
また、二次元強磁性ダイマー量子スピン系の基底状態相図の決定も、本年度研究の重要な成果である。特に、二スピン間相互作用のみを持つ系でもスピン・ネマティック相が実現しうるという結果が、多変数変分モンテカルロ法という信頼性の高い手法で示されたことは、実在の物質におけるスピン・ネマティック相実現の可能性を広げるものとして、当該分野の研究を促進するものと期待される。
これらを含んだ本年度の研究の進展は、当初の想定を超えるものと評価できるが、これらの結果の取りまとめ、及び、論文の出版まで到達できなかったため、本年度の進捗の評価を「(2)おおむね順調に進展している」とする。

今後の研究の推進方策

平成31年度においては、「研究実績の概要」欄で述べた、拡張実空間繰り込み群法のアルゴリズム改良、および、二次元フラストレート強磁性体におけるスピン・ネマティック相の解析に関する研究成果を取りまとめる。それぞれの成果を論文として国際雑誌に投稿し、また、学会・研究会等における成果報告を行う。
また、改良した拡張実空間繰り込み群法を用いた、二次元ランダム量子スピン系の研究を行う。特に相互作用がフラストレートした場合に実現される新奇量子無秩序状態に着目し、その特性解明を進める。さらに、改良したアルゴリズムの量子化学計算などへの適用を試行し、当該手法の応用範囲の拡張を模索することで、テンソルツリーネットワークに基づいた数値計算手法の更なる発展を目指した研究を行う。
二次元フラストレート量子強磁性体に関しては、平成30年度の研究で発見された、SU(4)対称点まわりで実現される新奇量子状態についての解析を行う。特に、スピン・ネマティック秩序、ベクトル・カイラル秩序などの多スピン秩序をもつ非磁性状態に着目し、その出現条件を調べることで、多スピン秩序状態の出現機構を解明し、それらの状態の現実の物質での実現可能性を探求する。

次年度使用額が生じた理由

研究が当初の想定以上に進展し、成果の論文取りまとめが次年度にまたがったため、成果報告のための経費が次年度に繰り越しとなった。次年度使用となった予算については、論文取りまとめに際する共同研究者との打ち合わせのための出張旅費、および、成果発表のための研究会参加旅費に使用する予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Paul Scherrer Institute(スイス)

    • 国名
      スイス
    • 外国機関名
      Paul Scherrer Institute
  • [国際共同研究] University of California, Berkeley(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University of California, Berkeley
  • [雑誌論文] Ground-State Phase Diagram of an Anisotropic S = 1/2 Ladder with Different Leg Interactions2018

    • 著者名/発表者名
      Tonegawa Takashi、Hikihara Toshiya、Okamoto Kiyomi、Furuya Shunsuke C.、Sakai Toru
    • 雑誌名

      Journal of the Physical Society of Japan

      巻: 87 ページ: 104002~104002

    • DOI

      https://doi.org/10.7566/JPSJ.87.104002

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 二次元ランダム量子スピン系に対する実空間繰り込み群法の改良と性能評価2019

    • 著者名/発表者名
      関孝一, 引原俊哉, 奥西巧一
    • 学会等名
      日本物理学会第74回年次大会
  • [学会発表] Ground States in an Anisotropic S=1/2 Ladder with Different Leg Interactions2018

    • 著者名/発表者名
      T. Hikihara, T. Tonegawa, K. Okamoto, S. Furuya and T. Sakai
    • 学会等名
      International Conference on Magnetism 2018
    • 国際学会
  • [学会発表] 二次元ランダム量子スピン系解析のための実空間繰り込み群法の改良2018

    • 著者名/発表者名
      引原 俊哉
    • 学会等名
      基研研究会 スピン系物理の最前線
  • [学会発表] 2次元フラストレート・スピンダイマー系におけるスピンネマティック秩序状態の変分法による解析2018

    • 著者名/発表者名
      引原俊哉, 桃井勉
    • 学会等名
      日本物理学会2018年秋季大会
  • [学会発表] 量子モンテカルロ法を用いたランダム量子スピン系の実空間繰り込み群法の性能評価2018

    • 著者名/発表者名
      関孝一, 引原俊哉, 奥西巧一
    • 学会等名
      日本物理学会2018年秋季大会
  • [備考] 個人WebPage

    • URL

      https://www.sci.st.gunma-u.ac.jp/%7Ehikihara/

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi