研究実績の概要 |
主に山本薫(大学院生)、Amnon Aharony(テルアビブ大・ベングリオン大)、Ora Entin-Wohlman(同前)との共同研究により、メゾスコピン系の熱電エンジンを解析しました。 熱電エンジンとは、最も簡単な例としては左右を量子細線につながれた量子散乱体の両側に異なる温度と化学ポテンシャルを持つ熱浴が接続されている系です。例えば左側を高温、右側を低温とすると、熱を運ぶために電子が左から右に流れます。そこで電子の化学ポテンシャル(電位に負符号をつけたもの)を右側で高くすると、熱を運ぶ電子は電位差の坂を登ることになり、仕事をします。つまり熱を電気に変換できます。応用としては、CPUボードに組み込むことにより、CPUの発熱を直ちに回収するなどが考えられます。 理論的には、非平衡状態ながら定常状態なので、温度差や電位差の非線形領域まで解析ができることに着目して研究を進めました。以下の成果を挙げました。 (1)メゾスコピック系の熱電エンジンの一般論を非線形領域まで含めて展開しました。ランダウアー公式の範囲では熱流と電流の表式を得て、線形領域では一般的な表式を得ました。前者においては、カルノー効率を達成するのは無限時間の極限しかないことを証明しました。[K. Yamamoto and N. Hatano, Phys. Rev. E 92 (2015) 042165] (2)磁場中での効率の上限を与えました。カルノー効率を超えない範囲で効率を高くするためには、非弾性散乱が必要であることを明確にしました。[K. Yamamoto, O. Entin-Wohlman, A. Aharony and N. Hatano, Phys. Rev. B 94 (2016) 121402(R)] (3)アンダーソン局在を利用して熱電エンジンの効率を上げることを提案しました。特に、パラメーター領域によっては不純物を増やすほど熱電効率が上がるという、直感と反する結果を得ました。[K. Yamamoto, A. Aharony, O. Entin-Wohlman and N. Hatano, Phys. Rev. B 96 (2017) 155201]
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