研究課題/領域番号 |
15K05201
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 宙志 東京大学, 物性研究所, 助教 (50377777)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子動力学法 / ランジュバン方程式 / 気泡生成 / 並列計算 |
研究実績の概要 |
気泡などの相転移を伴う系、もしくは高分子を含む複雑流体において、外部から注入されたエネルギーがどのように熱化するかを調べることは本質的である。一般にこのような複雑流体では熱化のプロセスは極めて複雑で、ミクロスケールとマクロスケールがカップルした現象となるため、その研究には必然的に大規模計算が必須となる。そこで我々は京コンピュータのフルノード(82944ノード、663552コア)で実用的に動作する大規模分子動力学法コードを開発した。その結果、137億粒子の計算で、2.44ペタフロップスの性能を実現することに成功した。これは京コンピュータの理論ピーク性能の23.0%に相当する。また、発行された四則演算命令のうち98.8%がSIMD化されるなど、コードは高度にチューニングされている。得られた結果を用いて、急減圧直後の気泡生成現象を解析し、急減圧直後は古典論の平均場近似が破綻していることが判明した。これは百億粒子以上の大規模計算により初めて到達可能な知見である。さらに熱化プロセスについて、単純化したLangevin系による解析も行った。急減圧後の気泡生成過程では、これはポテンシャルエネルギーが運動エネルギーに転化されることでエントロピーが単調増加しており、その過程で温度と圧力が向上していくこと、それがOstwald成長を支配する原動力になっていることなどがわかった。さらに、その圧力の時間変化と、大規模計算により解明された気泡の成長関数(Kinetic Equation)から見積もられた臨界気泡サイズの時間変化はコンシステントであり、気泡成長の古典論の記述が妥当であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京コンピュータで計算した大規模気泡生成過程のデータから気泡生成率を直接推定する研究については論文にまとめて投稿した。Langevin系における熱化ダイナミクスも現在論文にまとめている。関連発表も国際ワークショップ、日本物理学会などで行っており、本研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に行う予定であった不純物を含む大規模分子動力学コードの開発は未了であり、今後その完成を目指す。その後、流れの中での高分子のダイナミクスを分子スケールから解像し、その結果からどのようにエネルギーが熱化されるかを理解し、最終的に摩擦力低減メカニズムの解明を目指す。
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