研究課題/領域番号 |
15K05201
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 宙志 東京大学, 物性研究所, 助教 (50377777)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子動力学法 / 熱浴 / Nose-Hoover法 / 温度制御 |
研究実績の概要 |
分子動力学法の温度制御法としてNose-Hoover法が広く用いられているが、系によっては正しく温度が制御されないことが問題視されていた。広く知られている例は調和振動子であるが、他にも相分離している系において、温度が非一様な状態で維持されることが知られている。しかし、調和振動子における温度制御に比べ、相分離系の温度制御の問題を調べた例はほとんどない。そこで我々は、二成分流体における温度制御の失敗について調べた。調和振動子系の場合、Nose-Hoover法が温度制御に失敗するのは系に漸近的に非自明な保存量を構築し、そのためにエルゴード性が破れることが原因であるが、二成分流体など相分離を起こす系において、部分系がそれぞれ異なる温度に制御されてしまう問題は、Nose-Hoover法は平均温度しか制御しないことに起因する。そのため、調和振動子系においてエルゴード性を改善するために提案されたKientic-Moments法などの多変数熱浴も、Nose-Hoover法と同様な理由で二成分流体の温度制御に失敗する。なお、確率的熱浴であるLangevin法を用いれば正しく温度が制御されるが、これは確率的であることが本質ではなく、各自由度個別に温度制御をすることが本質である。その事実を明らかにするため、Nose-Hoover-Langevin法という、確率的で、かつ調和振動子は正しく温度制御できるが、二成分流体の温度制御には失敗する例を構築した。本研究により、調和振動子系と二成分流体系での温度制御の失敗理由は異なる原因で起きていること、確率的熱浴であればこのような問題をいつでも回避できるわけでは無いことが明らかになった。圧力制御においても同様な問題が存在するが、温度制御と異なり、局所的な圧力制御の方法は非自明であり、相分離した系を正しく圧力制御することは難しい。これは今後の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模分子動力学法、特に高分子や気泡などを含む非一様な系を正しく平衡化することは重要である。本研究により、どのような場合に温度制御に失敗するか、どうすれば回避可能であるかが明らかとなった。関連発表を物理学会で行い、かつ論文にまとめて投稿するなど、本研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、「京」を用いて非一様な系の大規模計算を実施しており、流れと相転移がカップルした複雑な系の再現に成功している。ただし、出力されるデータが大規模であり、効果的な解析手法の構築が必須である。今後、出力データの効率的な圧縮方法、および重要な情報を取得する効果的な解析手法の構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に投稿する論文の英文校閲費用に充てる予定であったが、投稿が次年度に持ち越されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
投稿論文の英文校閲費用とする。
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