研究課題
タービンやスクリューなど、流体中で物体が運動し、その運動により流体の相転移を誘起する場合がある。特にスクリューなどの表面における気泡生成・破壊はキャビテーションと呼ばれ、機器の破損などを引き起こすために、そのメカニズムの理解は工学応用上重要である。しかし、ミクロな気泡生成とマクロな物体運動の何桁ものスケールの差が解析を困難にしていた。そこで我々は、そのような相転移と流動がカップルした系の分子スケールからの解明を目指し、大規模分子動力学計算を行っている。その一環として、複雑流体中におけるカルマン渦の性質の研究を行った。流れの中に円柱を置くと、流れの後方に規則的な渦列が生成される。理想的な流体であれば、この渦列形状はレイノルズ数のみで決定されるが、流体中に高分子や気泡などの不純物が含まれるとその性質は変更を受ける。我々はLennard-Jones相互作用をする粒子を用いた分子動力学計算を行い、相転移を伴うカルマン渦列形成の研究を行った。流体の温度が高温である場合、円柱後方で減圧後も相転移は起きないためにニュートン流体と同様な振る舞いを見せたが、温度を下げると円柱にまとわりつくように気泡膜が発生し、カルマン渦が発生する点が後方にずれることがわかった。また、気泡膜により渦からの反作用が円柱に到達しなくなり、カルマン渦列が発生しているにも関わらず、円柱が感じる周期的な効力が消滅することがわかった。本研究により、分子動力学法という原子スケールからの計算によりセミマクロな流動現象まで扱えるようになったこと、さらに高分子や気泡生成といった、従来の流動計算では扱いが難しかった系も自然に取り扱えることが明らかとなった。
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The Journal of Chemical Physics
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