最近のレーザー閉じ込め等の実験技術の発展により、孤立量子系の時間発展が冷却原子系で実現され、様々な興味深い振る舞いが観測された。孤立量子系の時間発展ではもちろん量子状態は変化せず、状態それ自体は緩和しない。しかし、物理量演算子に着目すると、その状態期待値は次第に平衡値へ近づく。一般の孤立量子系では、物理量期待値は小正準分布の熱平衡値へ漸近し(熱化)、可積分系では一般化ギブス分布での平均値へ漸近する(平衡化)と予想される。 スカラー積公式など代数的ベーテ仮設の方法を用いて物理量期待値の時間発展を厳密に求め、一般化ギブス分布への緩和過程など可積分系の非平衡ダイナミクスの特徴を明らかにする研究を行った。最初に、代表的な可積分量子系の量子XXX鎖(1次元量子ハイゼンベルク模型)に対して、スピノン状態など、ベーテ仮設方程式の実数解に対応するベーテ固有状態を重ね合わせて実現される量子状態に対して、各格子点上の局所磁化の任意時刻での期待値を数値的に厳密に求め、孤立量子系としての量子XXX鎖の時間発展、特に局所磁化の平衡化(緩和)の様子を調べた。局所磁化は時間変数のべき関数的に減衰し、その指数はスピノン状態のスペクトル幅に依存する。 物理的応用の実例として近藤模型など量子不純物の可解模型の時間発展を調べる準備として、不純物スピンの格子点を持つスピン1/2量子XXZ鎖の厳密解を研究し、不純物とバルクとの相互作用の有限温度の振る舞いを、厳密解の熱力学的ベーテ仮説の方法を用いて解析した。そして、低温領域へのクロスオーバー温度を表す解析的な表式が導かれた。 量子XXX鎖の下向きスピン2個のセクターにおいて任意の格子長の場合に、べーテ仮設方程式の解に対応するベーテ量子数を全て厳密に導いた。べーテ固有状態の完全性の証明だけでなく、数値計算の面でも重要な結果である。この結果を量子XXZ鎖の場合に拡張した。
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