研究課題/領域番号 |
15K05207
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
内山 智香子 山梨大学, 総合研究部, 教授 (30221807)
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研究分担者 |
羽田野 直道 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70251402)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子記憶効果 / 量子輸送 / 量子開放系 |
研究実績の概要 |
近年の技術発展により、単調減衰で表すことのできない緩和現象(back action)が報告され始めている。この現象の背後には、注目系から環境系に流れ出た何らかの〝情報″の一部が再度注目系に戻ってくる機構があることが議論されている。しかし、注目系と環境系間でやりとりされる〝情報″の具体的同定およびその流量と質の定量化は未だ行われていない。そこで、本研究では、この要請に答えうる尺度を提案し、スピン・ボソン系等に適用することにより、back action の成立条件探索を目的としている。これにより、量子記憶効果における注目系と環境系の相互作用の役割を解明することを目指している。 今年度は、申請時の予定通りミラノ大の Vacchini 博士のグループとの共同研究により、注目系と環境系の間でやりとりされるエネルギーが〝情報″を担う物理量の第一候補であるとし、完全計数統計と呼ばれる手法を用いて、注目系と環境系の間のエネルギーの流量を論ずる尺度提案に成功した。その結果は、Phys. Rev. A, Vol.93 (2016) 012118(1-10)に発表済みである。具体的には、初期に注目系にあったエネルギーが一旦環境系に向かった後に環境系から注目系に戻ってくるエネルギー量をenergy backflowと名付け、これに注目した尺度を提案した。得られた定式化に対して様々なパラメータ探索を行った結果、環境系のスペクトル密度の幅が狭く、注目系と環境系の初期温度の高いほどenergy backflow量が多くなることが判明した。得られた結果を、非マルコフ性の尺度として注目されている( Non- Markovianity )と比較検討した結果、両者の間には、注目系と環境系の相互作用の相関関数の様相を根源とする関連性が存在すること、また量子記憶効果におけるその様相の詳細が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、申請時に予定していた通り、ミラノ大の Vacchini 博士のグループとの共同研究をもとに、注目系と環境系の間のエネルギーの流量を論ずる尺度提案するとともに非マルコフ性の尺度として注目されている( Non- Markovianity )との比較検討を行い、両者の間には環境系の相関関数の様相を根源とする関連性があることが明らかとすることができた。のみならず、その結果を、Phys. Rev. A, Vol.93 (2016) 012118(1-10)に発表することができた。またこれと並行して、申請時に次年度の研究課題として予定していたリゥビリアンダイナミクスの内容についても、研究分担者の羽田野博士、連携研究者のペトロスキー博士と綿密な議論を行い、前倒しで詳細に調査した結果、よく知られているNakajima - Zwanzig型のマスター方程式と全く同等であることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度提案した、注目系と環境系の間のエネルギーの流量を論ずる尺度をもとに、来年度はエネルギー流の質を論ずることができる尺度策定を行う。スピン・ボソン系を基本にしたシステムを取り扱うが、この尺度が今後重要な役割を果たすことが期待される、エネルギー伝送系にも適用することを予定している。また、初年度の調査により、今年度取り組む予定のリゥビリアンダイナミクスは、よく知られているNakajima-Zwanzig型のマスター方程式によって得られるものと全く同等であることが判明したため、本研究課題に取り組む手法として有効であるかを慎重に精査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より、旅費が安価に済んだため、次年度使用額が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度のテキサス大学、ミラノ大学等への出張旅費の一部として使用する予定です。
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