本研究では、近年の技術発展により注目を集めている、単調減衰で表すことのできない緩和現象(back action)における、注目系から環境系に流れ出た何らかの“情報”の一部が再度注目系に戻ってくる機構の具体的同定を目的とした。具体的には、完全計数統計とリゥビリアンダイナミクスを用いることで、この要請に答えうる尺度を提案し、スピン-ボソン系等に適用することにより、back action の成立条件探索を到達目標とした。具体的な研究課題は下記のようになる 課題1:量子開放系においてやりとりされる“情報”の具体的特定とダイナミクスの定式化 課題2:注目系と環境系の間の相互作用による、back action 素過程の同定 課題3:具体系への適用 平成27年度に課題1の定式化を行い、課題3の具体系への適用とともに予定より早く終了させたのち、課題2に予定していた内容についても、研究分担者の羽田野博士、研究協力者のぺトロスキー博士と綿密に議論を行い、前倒しで詳細に調査を行った。その結果リゥビリアンダイナミクスは、マスター方程式の分野ではよく知られているNakajima - Zwanzig型方程式と全く同等であることが判明した。当該研究で対象としたい量子系には、課題1で用いたタイプのマスター方程式の方が適していることが様々な研究から明らかになっている。そこで、課題2で予定していた手法を用いても、課題1で得られた以上の結果は得られないことが明らかとなった。以上をもって、平成27年度から平成28年度前半にかけて予定していた課題を予定より早く全て達成することができた。さらに、近年の世界的研究動向の進行が早く、量子情報から固体物性にわたる広い分野で非マルコフ性についての注目が集まっていることを鑑み、本課題についての研究を完了させ、さらに発展させた新たな課題に挑戦することとした。
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