研究課題/領域番号 |
15K05209
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 和博 京都大学, 理学研究科, 准教授 (50362447)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 液体金属 / 非弾性散乱 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
本研究では、流体金属の密度を連続的に低下させることにより、低密度の金属状態を実験的に実現しながら、非金属化に伴う構成粒子間の微視的相互作用について解明することを目的とする。具体的に、電子ガスモデルでよく記述されるアルカリ金属を対象として、電子集団運動であるプラズマ振動に着目し、非弾性X線散乱手法を用いてその挙動を観測する。これまで流体ルビジウムを対象として、融点近傍から1000℃に至る測定を進めてきた。しかし、現状、金属セルの高温長時間耐性に課題が生じており、その測定波数領域は限られている。一方で、今年度は、1000℃以下の領域における高精度な測定も同時に進めた。具体的に650℃と900℃における温度条件で、それぞれ散乱波数2.8 [1/nm]~5.0 [1/nm]と、2.8 [1/nm]~7.0 [1/nm]における非弾性X線散乱測定を実施した。取得したスペクトルのデータ解析結果によれば、密度低下に伴う励起エネルギーの低下が明確に観測されている。しかし、そのプラズモン励起エネルギーは電子ガスのそれとは異なり、低い値を取る傾向がある。この要因について、誘電関数に電子-イオン相互作用を摂動として取り入れた理論計算を行った。実験データから見積もられた長波長極限におけるプラズモン励起エネルギーは、計算値とよい一致をすることが明らかになった。また、有限の波数における励起エネルギーも含めた波数-励起エネルギー関係、いわゆるプラズモン分散関係の比較においても、実験で得られた分散関係は電子ガスのそれよりも励起エネルギーの低い側へとずれる傾向を示した。このずれは、温度上昇に伴い減少することが明らかとなった。このように分散関係の挙動は、熱力学条件に依存して顕著な変化を示すことが明らかとなった。観測されたプラズモン挙動について、今後さらに考察を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで300℃から900℃に至る比較的低温領域における測定に成功しており、熱力学条件に依存して変化するプラズモン挙動についての重要な知見を得ることができた。しかしながら一方で、1000℃近傍における高融点遷移金属セルを用いた長時間の測定には、セルの耐性にまだ課題があり、その測定散乱波数領域が限られている。今後、金属セルの改良を進める。
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今後の研究の推進方策 |
広範囲の散乱波数において高S/Nの非弾性散乱スペクトルを取得するためには、長時間の測定時間が必要である。高信頼のセル作製技術および溶接技術の構築を行うことにより、極端条件への耐性のある金属セルの開発を目指す。さらに、比較的低温の領域における測定もサファイア等のセルを用いて継続して行い、観測されたプラズモン挙動の変化について考察を進める。特に、分散係数の決定は有意義な知見を提供することから、分散係数の熱力学条件依存性にも着目しつつ、高精度非弾性散乱スペクトルの取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度予定の非弾性X線散乱実験で、実験に必要となる消耗品費、出張実験旅費などに、当初予定よりも経費を充当する必要が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
大型放射光施設における非弾性X線散乱実験の予定があり、その実験に必要となる消耗品費、出張実験旅費などに、経費を使用予定である。
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