研究課題/領域番号 |
15K05210
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田畑 吉計 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00343244)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピングラス / レプリカ対称性の破れ / 長距離相互作用 / エイジング現象 / 記憶効果 / 若返り効果 / 動的臨界現象 / 磁場中相転移 |
研究実績の概要 |
2017年度は、(i) 高濃度RKKYイジングスピングラスDy(Ru,Co)2Si2のスピングラスコヒーレント長の測定、(ii) スピングラス秩序変数の重なり関数観測のための磁気ノイズ測定システムの開発、(iii) フラストレート反強磁性体ZnFe2O4のスピングラス様磁気状態の観測、を主に行った。 (i)に関しては、2016年度までに同スピングラス物質で観測した"温度サイクル・シフトに対し非対称なエイジングの記憶と消去"のRSB(レプリカ対称性の破れ)スピングラスの階層描像で解釈することの妥当性について定量的に評価するために、エイジングの磁場依存性を観測することで行った。スピングラスコヒーレント長の温度、待ち時間依存性を詳細に調べ、レプリカ対称なスピングラス(液滴描像)で期待される温度カオス効果では我々が観測したエイジングの記憶と消去を説明できないことを示した。この結果は、我々の観測結果はやはりRSBの階層描像で解釈することが妥当であることを強く示すものである。 (ii)に関しては、2016年度までに悩まされていた回路の(試料由来ではない)ノイズの十分な低減を行うことに成功した。 (iii)に関しては、元素置換などの顕なランダムネスをもたないフラストレート反強磁性体でスピングラス様磁性が観測されるZnFe2O4について、(i)と同様の実験を行い、スピングラスコヒーレント長が中性子散乱実験で観測される短距離反強磁性相関長の数十倍の長さまで伸びていることを確認し、確かにスピングラス様秩序が生じていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RKKYイジングスピングラスにおけるRSBの実験的検証という本課題の目的に対し、エイジング現象を通した実験は大きく進展し、RSB(で期待されている階層構造)の存在を示す結果を得た。一方で、磁気ノイズ測定による検証については、回路のノイズ低減に成功し実験を行う目処は立ったが、2017年度内では十分な実験を行うには至らなかった。また、RKKYイジングスピングラス(Dy,Y)Ru2Si2の類似物質である(Ho,Y)Ru2Si2は、スピングラス秩序は示さないものの、スピングラス秩序相(や希釈系の長距離秩序相)の高温側で現れると期待されている"Griffiths相"の存在を示唆する結果を得ていた。2017年度はその実験的検証のために高エネルギー分解能中性子散乱実験を行う予定であったが、施設の限られたマシンタイムの配分の都合上2018年度に延期になった。以上の状況を総合的に考え、「やや遅れている」という評価を行った。なお、(Ho,Y)Ru2Si2の中性子散乱実験の2018年度での遂行のために、経費の一部を残して補助機関延長申請を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、2017年度に(諸般の事情により)遂行できなかった、磁気ノイズ測定によるRSBの実験的検証、高エネルギー分解能中性子散乱実験によるGriffiths相の実験的検証、を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題研究を遂行するために2017年度に行う予定であった高分解能中性子散乱実験の実施が、施設の限られたマシンタイム配分の都合上2018年度に延期になった。その実験遂行のために必要な旅費および消耗品費の分を2018年度使用額として残した。
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